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-Thor's Hammer And Fans-



Viking_Jewelry_1.jpgトールハンマーとメタル・ファン
 古代北欧で信仰された雷神トール(Thor)は、今でもその影響をヨーロッパ各地に残している。トールに対する信仰心は、古代人たちが身に付けていたアミュレット(お守り)の中にも見ることができた。それらは一般的に“トールハンマー”(Thor's Hammer)と呼ばれており、北ヨーロッパでは重要な存在だった。
 中世時代に活躍した北欧出身のヴァイキングたちは、自らの信仰を示すため、または戦いの時のお守りとして、様々な形のトールハンマーを製作した。それらは別名ミョルニルとも呼ばれており、ヴァイキングたちの故郷であるノルウェー、スウェーデン、デンマーク、アイスランドなどの国々からは、特徴的な形のペンダントが幾つも出土した。ヴァイキング時代のトールハンマーのペンダントの実物は、現在では北欧諸国の博物館で目にすることができる。
 近年のヘヴィメタル・シーンを見渡すと、何世紀も前にヴァイキングたちのシンボルとなっていたトールハンマーのペンダントが、時代を超えて受け継がれていることが分かる。その形は様々だが、古代の神々への信仰や戦士の強さの象徴としての意味合いは、ヴァイキング時代の頃から変わっていなかった。現代人たちは、その古代のシンボルに新定義を与え、更にはヘヴィメタルの精神的な世界と結び付けようとした。
 現代のトールハンマーの持つ意味合いは、一般的にはペイガニズムの強調や北欧神話への信仰の表れだと言われている。ヘヴィメタル・シーンの中では、アーティストやファンたちが、古代のアミュレットを模したペンダントを身に付け、バンドの叙事詩的な世界観を表現したり、歌詞の内容を具体的に描き出すためのシンボルとして用いた。そして、アーティストやファンたちは、お互いに共通のシンボルを身に付けることで、より強いコミュニティの形成を目指したのである。
 結果的に、近年のヘヴィメタル・シーンで古代のアミュレットの複製を身に付けるようになった背景には、ファンたちがバンド側と深く繋がりたいという意思もそこに加わっていた。90年代で勢いを増した北欧出身のヴァイキング・メタル・バンドたち──バソリー、エンスレイヴド、ミソティンなど──は、伝統的な形のトールハンマーのペンダントを身に付け、自らが描く8~11世紀頃の西洋の世界観を体現していた。例えば、18世紀中頃から19世紀初頭にかけての新古典主義のように、古代の思想や精神を現代で復活させる時、そこに具体的なシンボルが必要だったのである。
 トールハンマーのペンダントは、北ヨーロッパでは古くから親しまれ、既に日常生活の中に入り込んでいるものだった。それらは北欧の民族にとって、古い時代の信仰や精神性を示しており、自らのルーツを物語っていた。だからこそ、現代のヴァイキング・メタル・バンドたちがトールハンマーのペンダントを身に付けることは、必然的な流れだった。
 元々ヘヴィメタルという音楽は、特徴的なサウンドの他に、ファッション面でも大きな影響力を持っていた。ここには、ブラック・メタルやゴシック・メタルが表現している視覚的に不気味なファッションから、80年代のスラッシュ・メタル・バンドに見られるような、ブラックジーンズとTシャツのラフなスタイルまであった。そして、2000年代に入り、中世時代のノルマン人の精神を受け継いだヴァイキング・メタルへの支持が高まると、当然のように、そのファッションにも注目が集まった。
 現代のヘヴィメタルのファンたちがブックレットやライブなどで目にした、首元から下げられたトールハンマーのペンダントは、強烈な存在感だった。それらはシンプルなデザインだったが、同時に原始的な力強さを持っていた。真性のヴァイキング・メタル・バンドたちが重要に考えたのは、その古代のシンボルが歌詞やサウンドと明確に結びついていることだった。
 このペンダントがヘヴィメタル・シーンに浸透するのに時間はかからなかった。50年代から60年代にかけてのエルヴィス・プレスリーやビートルズ現象のように、ヘヴィメタルのファンたちは、直にこの独特のファッションスタイルを真似しようとした。ヨーロッパで人気の高いスウェーデンのハンマーフォールは、アンダーグラウンド・シーンの流行に乗って、ミュージック・ビデオの中で、このトールハンマーのペンダントを身に付けた。
 一方、ヘヴィメタルのファンたちは、インターネット通販や北欧諸国のアクセサリーブランドなどを利用し、急いで現代風のトールハンマーのペンダントを注文した。その中では、ノルウェーの宝飾ブランド、デヴィッド・アンデルセン(David Andernsen)のヴァイキング時代の装飾品を復刻した“Saga”シリーズが注目され、世界各地のオークションサイトでは、価格が吊り上げられた。そして、流れ行く時代の中で、古代北欧のアミュレットはより親しみやすい存在へと変化していった。
 このような経緯で、ヴァイキング・メタル・バンドたちが身に付けていたトールハンマーのペンダントは、新時代のヘヴィメタルのファンたちの間に広まり、これがファッションアイテムとして生まれ変わった。日本では、トールハンマーをモチーフとしたアクセサリーは殆ど売られていないが、ヨーロッパ諸国では、今でも高い人気を維持していた。実際のところ、流行に敏感でファッションセンスのあるヘヴィメタルのファンたちは、このアクセサリーを幾つも持っていることが多かった。



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