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The Eldritch Dark




 偉大なる作家の死から50年の歳月が流れた。自然の摂理なる時の蚕食によって朽ち果てた文化や遺物は数多いが、美と頽廃の芸術に彩られた幻想の物語群は朽ち果てることがなかった。68年という生涯に渡り、詩や小説、彫刻や絵画といった様々な芸術に対し類まれなる才能を開花させてきたクラーク・アシュトン・スミスの残した物語が、時代を越えて過ぎ去った悠久の太古の出来事を物語るように、真に素晴らしいものは永久に朽ち果てることがないのである。
 スミスの数多の傑作短編は1930年代に殆ど執筆された(徹底した描写のために長編は描かなかった)。ちょうどこの頃、かの有名な『ウィアード・テイルズ』誌が刊行されて全盛を極め、H・P・ラブクラフトやR・E・ハワードらが活躍していた。詩人ジョージ・スターリングの弟子でもあったスミスは、若き天才詩人として名を馳せていた。ラブクラフトは偶然にも友人から手渡されたスミスの詩集に深い感銘を受け、文通を通して幻想文学の執筆を強く勧めた。
 師の自殺を転機に、スミスがこれに応えるのは1929年からで、『ヨンドの忌むべきものども』(1925)はスミスが最初に執筆した幻想小説となった。1929年から1935年までの間にほとんどの小説が執筆され、大部分が『ウィアード・テイルズ』に掲載され人気を博した。その後は両親やラブクラフトの死(*)に絶望し、次第に筆先は鈍くなっていった。晩年のスミスは新たな表現方法として彫刻を見出し、小説に劣らぬ数多くの作品を残した。1961年に息を引き取った芸術家クラーク・アシュトン・スミスは、寝室で眠ったまま逝き、長らく夢見た理想郷へと旅立った(伝説では、スミスは本当に幻夢境に行き今なおその場所に住んでいるのだと囁かれている)。
 博学なスミスの理想は、常に遠い時代の国々に向けられていた。「黒の書」として知られる小説の概要をまとめた覚書には、スミスが追求した燦然たる世界の物語が記述されており、それがやがて様々な小説となって完成した。ハイパーボリアの連作では荒涼とした太古の世界を驚嘆すべき描写で描き、アトランティスの最後の島ポセイドニスの妖艶なる逸話も創造した。幻想小説には、中世フランスのアヴェロワーニュや宇宙を舞台とした奇抜な発想のものまであったが、スミスが終ぞ理想郷としたのは超未来の大陸ゾティークであった。幼い頃から『アラビアンナイト』等の東洋文学に触れ、異国の魅力に取り憑かれたスミスは、理想の東洋趣味の王国を創作することに思い当った。そうして誕生したのがゾティークであり、そこに描かれた朧気な世界観は今なお知的な人々を魅了してやまないのである。
 ハワードの小説のテーマが"文明の興亡"であったのに対し、スミスの小説のテーマは"理想郷の探求"並びに"人類の皮肉"であった。そしてスミスは太古の魔術師の如く言語を巧みに操って、その両方を完成させるに至った。残された遺産は読者に眩暈を誘発させ、異国の恥美世界への扉を開いてくれる媚薬のような役割を担っているのである。
 スミスの小説は驚嘆すべき幻想に満ち、優美に包まれた毒を欲する。これからも多くの人々がスミスの理想郷を訪れることであろうが、そこで見出されるのは現実という世界の裏側で隠れるようにして蠢いている、我々の真の無意味さや愚かさに他ならないのである。

Metal Epic, Aug 2011
Cosman Bradley



*H・P・ラブクラフトとスミスの父親は、同年の1937年に永眠した。

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