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Invictus



Country: United States
Type: Full-length
Release: 1998
Reviews: 94%
Genre: Epic Metal



アメリカ出身、"エピックメタルの帝王"ヴァージン・スティールの1998年に発表された8th。

前作『The Marriage of Heaven & Hell, Pt. Ⅱ』(1995)、前々作『The Marriage of Heaven & Hell, Pt. I』(1994)から展開されてきた壮絶なる「Marriage Trilogy」に終止符を打つ作品が、本作『Invictus』である。"屈せざる者"との意味を持つ強靭なアルバムタイトルは、本格的なストーリー・アルバムとして発表された本作の内容に大きく関係してくることになる。制作メンバーにはディフェイ(David Defeis:vo、key)とエドワード(Edward Pursino:g)の偉大なる名コンビが連なり、ドラムには前作でも密かにプレイしていたFrank(The Kraman)Gilchriest(d)、ベースにはRob Demartino(b)を迎えている。プロデューサー、ミキシングはSteve Youngが担当する形となった。

エピック・シーンにおける数多の功績と活躍とによって、欧州での絶対的地位の獲得と、それに伴う叙事詩的音楽の表現の場を得た彼らが満を持して放った8枚目の今作は、歴史的傑作と謳われたマリッジ第一部、及び第二部に勝るとも劣らぬ驚異的な完成度を有する作品となった。全編に跨りボーナストラック無しでおよそ80分にも到達しようかとする本作は、余りにも濃密かつ芸術的な視点を交えた内容の、広大な海洋の深淵のような深みを持つ叙事詩的作品である。故に本作については語るべきことが多くある。

本作を音楽的側面から語るとなると、まず第一に注目すべきは、彼らのアルバム・クレジット中最も攻撃的なギターリフの使用である。前作辺りから顕著になり始めた野蛮──彼らの言葉でいえば「Barbaric」──なリフを全面的に押し出した作風は今作でも当然の如く踏襲され、今回更にヘヴィメタリックなフランク・ギルクリースト(ds)の強烈なツーバスが加わった。また、叙事詩的なフレーズのセンスはより一層洗礼され、凝縮された蛮性と鋭角な固さを早急に宿すようになった。本作のアグレッシブなサウンドは聴いていて心地がいい(もちろん決して"軽薄な"という意味ではない)。

次に注目すべきは、これまで導入されてきた古代ギリシャ/ローマ系のメロディがより大胆に楽曲に添えられているということである。ディファイの謳い回しも急速にエピカルなシャウトを連発するようになり、神秘的な裏声も神々しいまでに崇高な表現力を身につけ始めた。冒頭を飾る名曲#2のサビには神聖極まりない裏声がフューチャーされており、究極の高揚感を誘発する。ヒロイズムを極めた#6には大仰な古代ギリシャ/ローマ系のメロディが大胆に導入され、ラストを飾る大作#16"Veni, Vidi, Vici"はカエサルの歴史的な名言「来た、見た、勝った」がそのままタイトルに冠されている。これらの古代英雄神話世界への傾向こそは、ヴァージンスティールのヒロイズムを形成してきたものである。本作の後に発表される古代ギリシア神話を題材にとった「アトレウス二部作」は、そうした世界観の完成であり、本作での成功から形作られていったのだ。

本編のアルバム全体の長さからも分かるように、楽曲の長さも相当なものであるが、ほぼ全てが静と動の転調、展開の発展といった劇的な手法の賜物である。これらからは、ヴァージンスティールのエピカルなヘヴィメタルに対する強固な姿勢が感じ取れる。中でも信じられないような展開を見せる#3等は鳥肌ものだ。先述した静と動の内容する二面性のように、天国と地獄の対極の世界のように、楽曲はそれらの表現と共通する。

孤高の英雄主義をエピカルかつヒロイックなサウンドで唱え、不屈の精神性を持って我々に最も重要な人間的メッセージを送るヴァージンスティールこそは、真実の探求者といえよう。彼らの描く叙事詩的世界では、音楽はエンターテイメントしてのそれではなく、ここでは音楽が"精神"と"生と死"、そして人間の人生を物語っているのである。荒廃しきった音楽世界において、彼らの存在は珍妙ですらある。そして彼らは決して売れないであろうが、一部の人間に音楽以上のものを提供し続けるであろう。

ここまで展開されてきた「Marriage Trilogy」を総括する本作には、最も重要な思想が隠されている。それは、ディファイが描く生涯のテーマである。タイトルの意味する〈反逆〉とは根本的な人類の精神を象徴しており、本編の物語では、古い人類──正しくは古き神々の子孫としての人間──が新しく侵入してきた神に対しその〈反逆〉を行う様が描かれている。更に、ここで加わってくるのが〈異教徒〉という概念と、〈輪廻転生〉という思想が生み出す精神の永遠性である。ディファイは古代の人間達を異教徒とし、それらは新しく生み出されたものに対する〈反逆〉を常に行う者として描いている。

『The Marriage of Heaven & Hell』は"天国と地獄の和解"をテーマとして、様々な叙事詩を神話時代のタペストリーの如く展開してきた。しかし今作で描かれたのは、人類と神に置き換えられた〈古き世界〉と〈新しき世界〉の対立──これは、かつてハワード(*)が小説の世界で描いたものに似ている──であり、それは現代のペイガンとキリスト教の対立にも置き換えることが出来る。天国と地獄は和解することが出来るが、宗教は永遠に和解することが出来ない。楽曲中に表現された激しい静と動は、単に劇的な楽曲を構成するための手法ではなく、対極にある二つの世界の相違を描くためのものとして真実を物語っているのである。

*アメリカの作家ロバート・E・ハワードは、ヒロイック・ファンタジーの生みの親としても知られる他、生涯に渡り、文明の興亡並びに〈古き世界〉と〈新しき世界〉の対立を根本的なテーマとして小説を執筆し続けた。代表的なものには、『King Kull』シリーズに登場する蛇人間と人類の対立がある。

少々大袈裟なことを述べるが、人類のごく一部の批評家達は、問題提起するのが上手である。特に、日本人は社会問題に対しての疑問点を巧みに見いだす傾向にあった。そういった書物は数え切れない程溢れている。しかし、問題提起をしても至って改善策は提起されない。問題を探し出す部分で終わってしまっているのだ。その点でディファイが本作で提示した不滅の意志は、我々の思考の一歩先を行っている。ディファイはよくヴァージンスティールのストーリーを聞かれた際に、「我々の物語は現代のことなんだ」と発言している。本作のストーリーでは、700年に渡る神との戦いの結果、人間は自由を得る。しかし、ディファイはこう語る「自由を生かすも殺すも我々次第だ」と。



1. Blood of Vengeance
人類は太古の神々の子孫であり、血の復讐(Blood of Vengeance)を遂げるために立ち上がる。馬の嘶きから剣の斬撃、首の飛ぶ音、そして神に対する反逆の叙事詩が幕を開ける。
2. Invictus
アルバムのタイトルトラック。不屈の闘志を燃やすエンディアモンが神に対し屈せざる意志を誇示する。強烈無比なバーバリック性を発散した珠玉のエピックメタルであり、重くスピーディなベースラインはマノウォーにも通じる。サビでは恰も天使を彷彿とさせる優美な裏声が感動を誘う。ヴァース、ブリッジとサビの対比の凄まじさは、歌劇のドラマティックな場面をも彷彿とさせる。なおウィリアム・アーネスト・ヘンリー(William Ernest Henley)のヴィクトリア時代の詩『Invictus』(1875年)がモチーフであるという。
3. Mind, Body, Spirit
精神、肉体、魂。その全てはかつて人類にとって一つのものであったという。前半は勇壮なリフをメインにして進み、後半からは別の曲とも疑いたくなるバラード調に変化する。当時、エピックメタルに慣れていなかった私の耳にはあまりにも衝撃的な曲であった。後半からの劇的な展開は一体何なのだと、何度も考えた。しかしこれがエピックメタルだと認知するまで時間はかからなかった。彼らの楽曲の中で最もドラマティックな楽曲の部類に入ることは必至である。
4. In the Arms of the Death God
物語の合間に挟まれるインストゥルメンタル。ギリシア風の旋律を引用し、次曲へと流れるように繋げる。
5. Through Blood and Fire
人類はエンディアモンの意志に応じ、新しき神から自由を取り戻すために立ち上がる。恰も決起するかのような、攻撃的なリフが印象的な楽曲である。シンフォニックなサビも勇壮さを高らかに歌い上げる。中間部でのギターソロの盛り上がりは本作を主張している。シンプルにまとまったエピックメタルの傑作としてシングルカットされたことも頷けよう。
6. Sword of the Gods
神の剣を天高く掲げ、人類の血の復讐が死の鉄槌の如く振り下ろされる。全編を貫くヒロイックな英雄的メロディが高揚感を最高潮に高める本作屈指の名曲。その鳴り止まぬ勇敢な旋律は、斬られた肢体から噴き出す血潮の如くである。この曲の中間部の古代ギリシア/ローマを想起させるシンフォニーは、次作「アトレウス二部作」にも導入され、重要な役割を果たす。
7. God of Our Sorrows
これまでに、人類が地球に刻み込んできた悪しき行為を悔いる悲劇的な詩。魅惑的なピアノとディファイのつぶやくような声のみの小曲である。しかしこの約1分に凝縮された神秘的な時間はつとに印象深く、感慨深い。メロディは、名曲"Crown of Glory"冒頭の意味深な旋律を彷彿とさせる。
8. Vow of Honour
#7に次ぐ小曲。強大なる神と対峙する際、屈せざる意志と、反逆心のみが人類に残された最後の武器となろう。緊張感の迸る静寂の中、ディフェイの裏声が野蛮にも厳かに響く。本曲は、常に美しさと野蛮さは紙一重であるという事実を物語っている。
9. Defiance
人類にとって最大の遺産は、剣による戦いの記憶である。そしてそれは、これからも変わらないであろう。本曲は、古典的なヘヴィメタルのスタイルを強く感じさせる荒々しい楽曲である。ヘヴィにギャロップするリフにヒロイックなメロディが乗り、恰も戦馬を駆る戦士をかすめる風を思い起こさせる。この雄々しい興奮こそヴァージンスティールの生み出す至高のエピックメタルであろう。
10. Dust from the Burning
野蛮に疾走するエピックメタル。重厚なリフを歯切れよく刻み、その最中に高潔なヒロイズムと緊張感を同居させる。本作の楽曲は非常に完成度が高い。
11. Amaranth
短いインストゥルメンタル。タイトルは不滅の花の名である。
12. Whisper of Death
神との戦い。厳かなる死の囁きは、神とエンディアモン(人類)のどちらに訪れるのであろうか。暗澹たる雰囲気──ヴァージンスティールに絶えず付き纏う、高度な文明が荒廃したかのような雰囲気──を身に纏い、サビで勇壮な転調を演じて聴かせる。9分に及ぶ大作でありながら、時折神秘的なパートも織り交ぜる展開は、恰もこの長さが必然的あるかのような説得力を持って語りかけてくる。
13. Dominion Day
天に至るかのような神々しい旋律が、夢にまで見た人類の神からの独立宣言を宿命の警笛の如く高らかに告げ、全身の浮遊感さえ感じさせる。簡潔に述べれば、この楽曲では人類の王国の建国記念日(Dominion Day)を歌っているということである。私は、この曲に個人的に入れ込んでいる。なぜならその感覚がこの上なく心地いいからだ。クライマックスに至る扇情的な展開は絶品としかいいようがなく、何度聞いても感銘を受ける。ここまで視聴すれば、大方本作がヘヴィメタルによる古典劇──古代ギリシャ/ローマの叙事詩を題材とした演劇──の再現であることが分かる。
14. Shadow of Fear
暗く重い雰囲気が漂う。それ即ちエピックメタルであり、後半の盛り上がりも耳を惹く。
15. Theme: Marriage of Heaven and Hell
マリッジのテーマメロディを短いながらに優雅に奏でる。最後の楽曲への布石としては最高であろう。
16. Veni, Vidi, Vici
我々は来た、我々は見た、そして我々は勝った。遂に人類は神をも征服し、剣によって生き、未来を手にした。最後に、人類は王冠を自らに授け、長き物語──マリッジ三部作──は幕を閉じる。ヴァージンスティールが生み出した史上最高の大作曲である本曲は、人類の勝利における窮極の歓喜を、カエサルの歴史的な名言を用い表現した至高の一大叙事詩である。ラストパートの、感動の域を超えた壮大な展開の中に突如出現する神秘的極まりないローマ的な──栄光のローマ帝国時代を想起させるものである──ピアノの旋律は、恐らく彼らが生み出した窮極の叙事詩的旋律である。最後の大団円ともいうべきパートで、ディフェイがその叙事詩的旋律に歌詞を乗せて歌い上げる場面は、感涙に値する。これはヴァージンスティールがエピックメタルという枠組みを越え、歴史の一部となった瞬間である。エピックメタル史上に残る壮大なフィナーレを通じ、我々は一つの興亡を目にしたのである。



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