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The Chthonic Chronicles



Country: United Kingdom
Type: Full-length
Release: 2006
Reviews: 100%
Genre: Symphonic/Epic Black Metal




ロバート・E・ハワード、H・P・ラヴクラフト等の流れを組む天才的な詩人バイロン・ロバーツ(vo)率いる、エピック/バーバリック/シンフォニック/ヒロイック/ウォー系ヘビィメタルの頂点を極めたバルサゴスの6枚目となる現在での最終リリースアルバム。2006年発表作である。前作『Atlantis Ascendant』(2001)の発表から約5年ぶりとなる6枚目のアルバム発表にあたり、これまでドラムを務めていたデイヴ・マッキントッシュ(ds)がドラゴンフォースに加入するために脱退。後任に新しくダン・マリンズ(ds)を迎え発表に漕ぎつけた。強烈な存在感を示すアートワークは、前作と同じくマーティン・ハンフォードが担当。前作まで国内盤が発売されていたにも関わらず、今回国内発売が見送られたのは、セールスによる不振か、歌詞が長すぎるために翻訳家が拒否したためかと思われる(笑)。冗談はここまでにしよう。

本作を私は、バルサゴスのアルバム中の最高傑作、いや全エピックメタル・アルバムの最高地点に位置付ける(もちろん私の独断と偏見で、ある)。エピック・メタルがヘヴィメタルのシーンに生まれてこの方、まさかこのような、超越的な畏怖すべき作品が生まれることは、全く持って驚異的としか表現のしようのない。私は鳥肌が立つ思いだ。事実、これはもはやエピックメタルというジャンルを超越した芸術作品なのではなかろうか。まず、アルバムの概要に入る前に、これまでの彼らの旅を振り返っておいたほうがいいだろう。そうでなければ、我々は全く持って無知のままに、彼らの世界観を理解できないまま終わってしまう(しかし、世界観を全く知らないにしても、音像のみで十分楽しめてしまうのが彼らの凄いところである)。それは残念なことだが、彼らの肥大しすぎた世界観を完全に理解することはほぼ不可能に近い。よって要点だけを抽出しておこう。

バルサゴスの物語...
最初に、バルサゴスの歴史が幕開けた第一作目『A Black Moon Broods Over Lemuria』(1995)から、彼らは太古の時代の地球に目を向けていた。この時代は、人類が始めて生命の息吹を上げた時代であり、バルサゴスの壮絶な叙事詩の物語のすべてが始まった時代であった。創始者のバイロン・ロバーツが夢見たように、太古の物語は、6thに当たるすべての世界に共通することとなった。次に、第二作目『Starfire Burning Upon The Ice-Veiled Throne Of Ultima Thule』(1996)における古代の世界が舞台となった。古代は、野蛮から未だ醒めぬ人類の先人達が作り上げた偉大な文明と戦いが支配する時代であり、バルサゴスの物語の重厚な基盤を固めた。太古から続くハイパーボリア、アトランティス、レムリア、ムー等の煌く文明国家を舞台にした物語であった。これらの太古の失われた諸大陸がバルサゴスに与えた影響は計り知れないであろう。そして、やがて、物語は第三作目『Battle Magic』(1998)にて中世世界に移る。幻想と秩序が支配する輝かしい魔法のような時代であり、バルサゴスの物語ならずサウンドにも多大な影響を及ぼした。それは、大仰かつファンタジックな交響曲の要素であった。続いて彼らは、第四作目『The Power Cosmic』(1999)で未来──またの名を宇宙──へと舞台を移した。技術の驚異的な革新により宇宙へと進出した人類が未知の生命体と出会い共存、戦争を繰り返す最終的な時代であり、バルサゴスの物語に途方もないスケールを齎した時代であった。これによって彼らの世界観には限りがないことを我々は知ったのだ。彼らが最後に描くことになったのは、第五作目『Atlantis Ascendant』(2001)に描かれた現代の時代であった。与えられた多くの時間を探索に費やす最も変哲もない時代であり、バルサゴスの物語にすべてを見通す余裕を与えた時代であった。かくして、彼らの長き探索は続いてきたのであった。そして、*Hatheg-Kla(ハテグ=クラ)として知られる神秘的な山脈から始まって、物語られた──解き放たれた──六つの鍵が、この第六作目『The Chthonic Chronicles』(2006)によってHatheg-Klaに帰還する時が遂に訪れたのである...

*H・P・ラヴクラフトの『蕃神』に記される禁断の霊峰。太古の時代には、大地の神々が住処としていたという。また、古代ハイパーボリアの魔術師による『エイボンの書』には、《スランを東に望むハテグ=クラ》と表される等、バルサゴスの叙事詩にとって極めて重要な位置を担う山脈である。

冒頭から長々となってしまったが、アルバム本編の内容について語ろう。この6枚目のアルバムは、これまで発表されてきた5枚のアルバムの中でエピック・メタルを独自に進化・発展させてきた、強いてはバルサゴスという天武のヘヴィメタルバンドの集大成的作品である。読んで字の如く、他の一切の追従を許さない窮極的に完全な形態に達したエピックメタルアルバムである。進化した面は様々である。これまでアルバムの要となっていたシンフォニック面では、キーボードを多用していたのであるが、今作では、生の交響楽団を起用することに成功。「ハイパーボリア交響楽団」と題された壮大な交響楽団の素晴らしい仕事によって、バルサゴス・サウンドはこれまでとは比べ物にならないほど本格的な重厚感を共有することとなった。よって傑作とされた過去の5枚のアルバムの中で唯一欠点とされた音質のチープさはもはや完全に消え去っており、臨場感、雰囲気、重厚感は限りなく完璧の部類にまで到達した。それを体現するかの如く、異才を放ってきたバイロン卿のナレーションにも空間的な処理が施され、まるで音の中からズルズルと這い出るような不気味さと生々しさを聴衆に感じさせることが可能となったのである。

完璧である本作を語る上で重要なキーワードとなってくるのが、タイトルの「The Chthonic Chronicles(冥界歴程)」である。恐るべき魔道書として幾多の時代に影響を及ぼすこの品は、ある種の神秘世界で有名な『ネクロノミコン』や『ナコト写本』、はたまた『エイボンの書』を想起させる。この書が壮絶な基盤となり、本作各曲のところどころに登場していくのである。いわゆるアルバムのコンセプトは、本格的な神秘世界であり、突き詰めるならばコズミック・ホラーの世界だといえる。アルバムを聴いてみても実にオカルティックで背筋がゾクゾクするような緊張感のあるものである。かつてバイロン卿は、大学でH・P・ラブクラフトについての論文を書き上げた(これについては1stのレビューで触れる)ほどの、熱烈なラブクラフティアン──ラヴクラフトに心酔している者達を時にこう呼ぶのである──だった。これまでの作品にも見られた、クトゥルー神話に通じる秘境的な宇宙的恐怖がこのアルバムには充満している。

完全無比なプロダクション・音質と相俟って、遂にバイロン卿や片腕ジョニー・モードリング(key)が思い描いた世界を表現することが可能となったのである。その結果として誕生したのがまぎれもない本作であり、非常にカルト的な、世にも恐ろしいエピックメタル作品が産み落とされたのだ。同時に、これまでの彼らの栄光の旅を網羅する、集大成的な作品ともなっていった訳である。物語には、彼らが最も追求したといえる太古の世界が主に描かれているのであるが、驚くべきは4thの内容でも触れられていた宇宙の真理のように、まさに地球の起源についての真実、人類学の本質、この惑星の未来についての極めて真理に近い部分まで網羅しているということだ。特に、すべての始まりと終わりを仄めかす#12の歌詞の内容については不気味なものさえ感じる。アルバムの締めくくりも不穏なものだ。しかし、その謎や神秘性がバルサゴスたる由縁のように感じてしまうのも、また事実である。

どちらにしろ本作品がバルサゴス以外の何物でもないことは扱く明白であり、バルサゴスは単にメタルを超越した、一つのジャンルを作り上げたに他ならない。本作の唯一の問題点を挙げるとすれば、あまりにも完璧な窮極のエピックメタルアルバムであるために、聴くのが勿体ないと感じてしまうことだ。よって私などは、このアルバムを封印することとなり、結果的に何か欠点のある別のメタルアルバムの視聴に走ってしまうのである。人間は完璧なものを遠ざけて、欠陥品の中にも魅力のある作品を求めてしまうというのも、悲しい性である。。最もそれを体現しているのが私なのだが。このようなことにならないように、是非バルサゴスファンは、本作を過剰摂取してもらいたいものだ(笑)。

バイロン卿は、インタビューで今後のアルバムについては未定であると語っている。最後の曲でHatheg-Klaに帰還してしまったため、多くのファンは彼らがメタル界から去るのかといぶかしんだ。バイロン卿はこのように語った「我らバルサゴスの物語の宝物庫には資料が十分にある。我らはそれらをレコーディングするかもしれない、しかし、以前のバルサゴスの栄光たる伝説が酷く汚されるか、もしくはそうなるのであれば、その前に我らは自らの仕事をこれまでに切り上げるかもしれないだろう」最近では、頻繁にライブ活動をしているようで、是非このまま新しいアルバムにこぎつけてもらえればと思っている。2009年のインタビューでは、2012年のマヤの歴史的な日付に対する7枚目のアルバムを考慮しているとも明かしている。バイロン卿の話によると、その時、星辰は揃うというが…。



1. 冥皇陛下に捧ぐ第六の賛辞
The Sixth Adulation Of His Chthonic Majesty
太古の魔道書を解読したという男が宇宙の邪悪な存在について仄めかすという、不気味なイントロダクション。聴くことによって目の前に太古の世界が広がり、脅威を感じることができる。進化したバイロン卿のナレーションの迫力が早くも炸裂している曲である。

2. 外界の夜を超えた召喚
Invocations Beyond The Outer-World Night
5thの"In Search Of The Lost Cities Of Antarctica"の完結編。古代地図を手に入れた探検家が竜巻丸(探検家の乗船する船の名である。バイロン卿は、以前にもヨアヒム・ブロックの刀にマサユキ銘を与えるなど、好んで日本名を用いている)で北極に行き地底への入り口を発見する。そしてそこには、数万年の昔に滅んだはずの暗黒世界と《初源の者達》の遺産が眠っていたのである。ここでも雪崩れるようなリフとドラムの猛攻撃は健在。一度の視聴のみで、バルサゴスのサウンドが驚異的な進化を遂げていることを判断するのは容易なことだろう。中間部分には、バイロン卿が生み出した、外界の神性の名を不気味に朗読するパートも登場する。要訳すると、ズルテーフ、ズクゥル、カ=ク=ラ、ゾータン=クゥ、クルオック、グゥル=コオル、アゾール・ヴォル=トースという名状しがたき神性の名が浮かび上がる。

3. 魔神の化身へ捧ぐ百三十の奉納
Six Score And Ten Oblations To A Malefic Avatar
この曲では、前作に登場したカレブ・ブラックスローン三世教授の友人、イグナティウス・ストーン博士の終極的な物語が語られる。彼は偶然にも、1666年のロンドンの大火によって失われたはずの《冥界歴程》を発見する。しかし、その後、彼は謎の秘密結社《ヒルデブランド》につけ狙われる。そして鍵を隠そうそするのだが。物語は非常に緊迫したものであるが、曲はそれを遥かに凌駕するおぞましいものとなっているということを、我々は確認した方がいい。秘教に対する、究極の探索行である。冒頭の謎めく語り、攻撃的で鋭角的なギターリフ、幽玄なオーケストレーションが神秘性を徐々に醸し出していく。中間部では、まるで世界が変わったかの様な驚異的な展開を見せ、過去最も神秘的ともいえるギターメロディが流れる。このパートは、宇宙的な真理を醸し出しているか、または異次元ともとれる超越的な部分であり、舌筆に尽くしがたい興奮を齎す。聴者は、早3曲目にしてサーガの終着点を目撃することになろう。

4. 解き放たれる黒曜石冠
The Obsidian Crown Unbound (Episode: IX)
《黒曜石王冠》サガの続編にあたる。《帝国》は、《黒曜石王冠》の絶大な魔力でヴィルゴシア難攻不落の城塞都市グル=コトースを遂に突破する。そして皇帝クールドは、《黒き湖》のオーガ魔術師と剣聖キアマンクに古代の伝説的な《影の王》を蘇らせる解放の言葉を唱えるよう命じる。非常に荘厳な曲であり、中間部のいきなり鎮まりかえるパートのナレーションはおぞましいことこの上ない。重厚なリフが行進曲調に刻まれる序盤のパートは非常に厳かだ。

5. 滅亡した深海平原の諸王国
The Fallen Kingdoms Of The Abyssal Plain
地球最初の生命を創ったとされる《メラ》。その落とし子は《初源のもの》と呼ばれ、大いに繁栄する。その《メラ》と《初源のもの》に関した神話を元に、忠実に作られたインストゥルメンタルである。人類学的、神秘学的なエフェクトがこの世界の想像もしない太古の時代の光景を我々に見詰め直させる。。潜在的な感覚を呼び覚ます神秘的なシンフォニーである。しかし悲しいかな、《初源のもの》が設計した最後の海底都市は、地上の天変地異によって徹底的に破滅したのである。いかな偉大な文明といえども、最期には滅ばなくてはならない。バルサゴスは、その瞬間を我々に伝えてくれたのだ。

6. クトゥルーの塔に囚われて
Shackled To The Trilithon Of Kutulu
やがて大いなるクトゥルーは、地上にルルイエの館より再び蘇り、地上人らを支配するだろう、というラヴクラフトより発展した「クトゥルー神話」にインスパイアされた曲。迫りくる脅威を見事エピック・リフで表現している。中でもラスト付近の怒涛の展開力は、人間の聴覚では捉えきれない。というのは嘘だが、それほど切迫しているということを分かってほしい。

7. 皇帝の鉄槌
The Hammer Of The Emperor
太古の世界を忠実に再現した楽曲。私にとっては、歴史的名曲といえる曲である。冒頭の歴史を想起させる重厚なリフ、あまりにも器用なオーケストレーションは凡百のバンドが醸し出せるものではなく、最後の古めかしく、古代世界の栄光を綴ったかのようなギターメロディの流れには胸を打つものがある。

8. 解き放たれるカルナックの旧き監視者
Unfettering The Hoary Sentinels Of Karnak
5thの"The Dreamer in the Catacombs of Ur"の前編。ウルの地下墓地に眠る《夢見るもの》にイグナティウス・ストーン博士が遭遇するという物語である。これも背筋がゾクゾクするような、典型的なバルサゴスの曲である。

9. ビザンティウムのキュクロープス式の門を襲撃せし事
To Storm The Cyclopean Gates Of Byzantium
神曲である。バルサゴスが生み出した曲の中で、究極ともいえる超越的な次元に達し得た曲だといえる。私は全ての曲の中でこの曲に対して最も好意的である。歌詞──正確には、ブックレットに記述されているもの──では、皇帝セプティミウス・セウェルスを操りビザンティウムを壊滅させた魔道師アングサール──彼は、ハイパーボリアで登場した「混沌の闇の君主アングサール卿」と同一人物である──について語られているが、楽曲全体の概要は違っているように感じられる。全ての集大成的なインストゥルメンタル曲なのである。これまで、バルサゴスが旅してきた過去・未来・現代すべての世界の光景が鮮烈に蘇り、それは人間の壮大なものに対する根本的な感動を揺さぶり涙腺を刺激する。もしバルサゴス・サーガを締めくくるとしたら、この曲が最も相応しいだろう。

10. 太古の神秘
Arcana Antediluvia
《怪奇なる海》を旅する謎の「黒き船乗り」についての物語。彼の存在は謎に包まれている。勇壮なリフに絡むピアノが非常に神秘的だ。

11. シドニアの真紅の円蓋の下で
Beneath The Crimson Vaults Of Cydonia
火星シドニアにある人面岩についての曲。宗教観も含まれる。火星の人面岩の下には"暗黒銀河の妖蛆"が眠っており、かのものが目覚め地球に到来すれば、三大宗教──キリスト、ユダヤ、イスラム教──は終焉を迎えると記されている。クライマックスあたりでのリフの劇的な加速と雪崩れ込みはあまりにも過激かつスリリング。最後にこれほどの雪崩込みをお見舞いされると、こちらもだんだんと感覚がマヒしてくる。もちろん良い意味でだ。

12. ハテグ‐クラへの帰還
Return To Hatheg-Kla
《大いなる宇宙の眼》を見、真実を悟った者が、この世界の始まりと終わりを知るという、バルサゴス・サーガを締めくくるかのような歌詞である一方、不穏な終わり方を見せる不気味なエピローグである。宇宙的な電子音、神秘的な女性の裏声が虚空に鳴り響く。もしかしたら本当に神秘的なものとは、人間の既存概念では捉えられないのかもしれない。思い返せばバイロン卿の物語は、殆どが断片的で、知識欲の探求に満ちていた。私は、バイロンの"断片的"という形式に関しては、物語が計り知れないほど遥か太古か未来に渡っている故に詳細に記述することができないため、という自論を出すことが出来る。しかし、もう一方の"知識の探求"においては、もう人間の永久的なテーマとして捉える事が最もな解決策であると思っている。この人類の根本的ともいえる深いテーマがあるからこそ、バルサゴスの物語やサウンドは、常に神秘的で、知的好奇心を刺激してくれるのだ。それは決して薄っぺらいことではないし、難しいことでもない。まずは何かを探求する、ということが人間には重要なのだろう。では最後に、死語となっているあの言葉で、バルサゴスの全レビューを締めくくるとしよう。私の駄文をここまで読んでくれた方々には、誠に感謝の意を表したい所存である。



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