Introduction

「エピック・メタルとは、叙事詩的なヘヴィメタルの総称であり、主に大仰かつ劇的でヒロイックな音楽性を示す言葉である」 [More stats] ──Cosman Bradley |
◆新着情報 News Topics
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Country: United States
Type: Full-length
Release: 1986
Reviews: 90%
Genre: Thrash Metal
アンスラックスの1986年発表の3rd。
ヘヴィメタルはイギリス産であり、やがてアメリカへと渡ったが、当然の如くアメリカで育まれたヘヴィメタルはそれらの影響を受けたものであった。具体的にはNWOBHMの影響下にあるバンドがアメリカでも支持を持ち、アンダーグラウンドから徐々に表舞台へと光を見出していったことである。その経緯に至ってはアンスラックスも殆ど同じだが、アンディアンの血を引くジョーイ・ベラドナ(vo)が物語っているように、アンスラックスの根本的な音楽のルーツは母国アメリカにある。
スコット・イアン(g)とチャーリー・ベナンテ(d)という強力なメタル・ミュージシャンが生み出した最高傑作『Among the Living』は、怒涛の疾走感で我々の脳髄を直撃することとなった。当然本作はNWOBHMの影響下にあるが、日々進化するヘヴィメタルのスタイルのように、アンスラックスは独自の個性を打ち出した。その結果誕生したのが"Indians"という名曲であり、この偉大な楽曲はアンスラックスを代表するアンセムとなって久しい。その他、ハードコアやパンクの激烈さを合わせつつ完成していった本作の楽曲群は、何れもスラッシュメタルの名曲に値する絶大な切れ味を誇っているものである。完全にNWOBHMの影響に屈することなく、アメリカ本来の反骨精神や向上心を宿した本作こそは、アンスラックスがスラッシュメタルという狭義な分野で残した名作と呼べる代物であろう。
1. Among The Living
重厚なリフで徐々にテンポアップしていく名曲。歌が入ればもう立派な高速のスラッシュメタルに成り代わっている。スピーディなリフとクリーンヴォイスの融合が非常に心地よく響く。
2. Caught In A Mosh
不穏なイントロ部分から爆裂に疾走。ジョーイ・ベラドナの歯切れの良いヴォーカルと掛け声が見事に合わさる。中間部のソロパートではメロディアスなフレーズも聴かせる。モッシュについて歌った楽曲であり、アンスラックスはモッシュを広めたことでも有名なバンドである。
3. I Am The Law
イギリスのSFコミックのキャラクター、ジャッジ・ドレッドを題材とした楽曲。ライブのような生々しい駆け引きで聴き手に迫る。ミドルテンポの楽曲だが、後半から怒涛のスピードが一気に展開される様には驚く。
4. Efilnikufesin (N.F.L.)
メロディックなリフと硬派なリフを交互に繰り出す。綺麗な歌に続く掛け声はモッシュに最適。
5. A Skeleton In The Closet
小刻みなリフが疾走する。ライブを意識したという本作の作風を主張するような楽曲である。
6. Indians
インディアンの悲劇について歌い、民族調のメロディを取り入れた、アンスラックスを代表する名曲。伝統的な旋律と鋭利なスラッシュメタルの融合は、斬新な切り口となって新たな興奮を生む起爆剤となった。
7. One World
メタリックなリフのパワーで押す部分はアンスラックスの得意分野であろう。無論、本曲もスピードとパワーで過剰に前へと突進する。
8. A.D.I./Horror Of It All
アコースティック・パートで始まる。その後重厚なリフによる演奏が続く。およそ7分に及ぶ楽曲である。
9. Imitation Of Life
相変わらずの激しさを持つリフだが、ドラムのアグレッションも秀逸。途中から更に加速し、高揚感を誘発する。ジョーイ・ベラドナのインディアンのような奇声も非常に効果的である。
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Country: United States
Type: Full-length
Release: 1985
Reviews: 86%
Genre: Thrash Metal
アンスラックスの1985年発表の2nd。
1981年にアメリカのニューヨークで結成されたアンスラックスは、他のスラッシュメタルの実力者らと同様に、早くも第2作で『Spreading the Disease』という傑作をシーンにぶつけてきた。本作において、インディアンの血を引くジョーイ・ベラドナ(vo)をヴォーカルに迎えた新生アンスラックスは、猛烈な勢いで突進するリフの壁に加え、しっかりと歌い上げられるメロディ・ラインでも異質を放つ素質は十分にあった。またアンスラックスの楽曲は、邪悪過ぎない部分も特徴的であった。一言で形容してしまえば、アメリカのストリートで育ったようなスラッシュメタルなのだ。
本作で定着した決定的なスタイルは、後のアンスラックスの定番となっていく末路を辿った。即ち、凶暴なスラッシュメタルにメロディのあるヴォーカルという斬新なスタイルが、スラッシュメタルの歴史においても多大な影響を与えたということである。当時の若者が熱狂して本作を視聴したというのも無理はない。しかし、その現象は今でも変わらないようだ。
1. A.I.R.
期待感を煽るドラマティックな冒頭が高揚感を感じさせる。頭を振らせるヘヴィな曲調に加え、中間部からテンションの高い転調が始まれば、それは名曲となる。タイトルの由来は、"Adolescent In Blue"である。
2. Lone Justice
細かく織り成されたリフに爽快な疾走感が続く。
3. Madhouse
アンスラックスの良さが出た名曲。爆走するリフの先に待ち構えるジョーイの掛け声が心地よく響く。本曲はアンスラックス初のプロモーション・ビデオが制作された記念すべき楽曲であり、見事に精神病患者を扱った過激な内容がMTVの目に触れ放送禁止となった(笑)。
4. S.S.C./Stand Or Fall
80年代スラッシュメタルの雰囲気を色濃く残す楽曲であり、何かの麻薬のような中毒性がある。突き抜けるかのような疾走感はここでも健在である。歌のメロディが若干アイアンメイデンの影響下にある。
5. The Enemy
NWOBHMからの影響を覗かせるメロディが印象的なミドル・テンポである。
6. Aftershock
重厚に構築されたリフの壁。
7. Armed And Dangerous
アコースティックパートを前半に持つバラード調の楽曲。後半からはメロディックなスラッシュメタルへと変貌を遂げる。そのドラマ性は見事という他ない。当時のスラッシュメタルバンドとしては珍しい選択といえよう。
8. Medusa
メデューサというタイトル通り不気味な雰囲気が支配する。重厚かつシリアスなリフの行進が非常に格好いい。
9. Gung-Ho
猛烈な速さを誇る名曲。開始直後から終了まで、嵐のように過ぎ去っていく。
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Country: United States
Type: Full-length
Release: 1990
Reviews: 89%
Genre: Thrash Metal
スレイヤーの1990年発表の5th。
スレイヤーの第5作目に当たる本作『Seasons in the Abyss』について、頻繁に『Reign in Blood』(1986)と『South of Heaven』(1988)の音楽性を合わせ持った作品であると指摘されるが、その表現こそ本作を最も忠実に再現した言葉であろう。初期スレイヤーの集大成でもある本作は、彼らの魅力を余すところなく詰め込んだ傑作である。
最初、スレイヤーは見境なく暴れ狂う怪人といった有様でデビューしたが、作品を重ねるごとに凶暴ではあるものの、より洗練されていった。その進歩は楽曲の世界観だけには留まらず、表現力を増したメロディ面での進歩にも及んだ。詰まるところ、スレイヤーの目指したスラッシュメタルの美学が、本作には表現されているということである。それはファンを熱狂させるに相応しい要素を有し、また背筋をゾクゾクさせるような恐怖をも伴っている。スレイヤーの血の王朝は終わりなく続き、今後も世界各地で人々に衝撃を与え続けることは間違いない。
1. War Ensemble
冒頭を飾るに相応しい圧倒的なスラッシュ・メタル。洗練されたサウンドがスレイヤーに更なるアグレッションを与えた。暴れ狂うリードギターも凄まじいが、ドラムの激烈さも見逃してはならない。
2. Blood Red
ザクザクしたリフに頽廃的な歌が乗る。リードの旋律は恐怖感を増大させる。
3. Spirit In Black
緩急を交えながらアグレッシブに展開していく。苛烈なリフを冷淡に繰り出していくところが素晴らしい。
4. Expendable Youth
犠牲者に襲い掛かるような、危険な雰囲気を宿したリフを持つ。随所にスレイヤーの得意とする悪魔的なメロディも登場。歌のラインも良い。
5. Dead Skin Mask
メロディを強調した楽曲。不気味な曲調で進む様は異様ですらある。
6. Hallowed Point
超絶な突進力を誇る名曲。その前にはあらゆるものが破壊されても可笑しくはない。
7. Skeletons Of Society
ヘヴィなリフが歯切れ良く刻まれる。表現力を増したトム・アラヤのヴォーカルと共に、ミドルテンポであるにも関わらず緊張感を宿している。
8. Temptation
ヘヴィネスと鋭利さを共存させたリフ、その先にあるのは至高のスラッシュメタルである。中間部から緊張感を増す転調も披露する。
9. Born Of Fire
破壊的な中にも整合性の断片を見出すことが出来る。吐き捨てるようなヴォーカルが特徴的である。
10. Seasons In The Abyss
初期スレイヤーの集大成ともいうべき傑作。緊張感、邪悪さ、攻撃性などすべてが凝縮されている。迫りくるようなリフはスレイヤーの中でも最高のものである。サビらしき部分も存在し、トム・アラヤは陰惨な呪術師の詠唱のような歌唱を披露している。
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Country: United States
Type: Full-length
Release: 1988
Reviews: 82%
Genre: Thrash Metal
スレイヤーの1988年発表の4th。
人間はしばし盲目に陥ることがある。スレイヤーの前作『Reign in Blood』(1986)の衝撃が強すぎたために、第4作として発表された『South of Heaven』が僅かに遅くなったことで、本作は一部のファンや雑誌で非難の対象とされた。歳月がすべてを解決させるとはよく言うが、歳月が作品に対して再評価の機会を与えるということも、我々は知るべき事実である。
前作同様リック・ルービンをプロデューサーに迎えた本作は、依然として高い完成度を保ち、スレイヤー独自の邪悪な世界観を徹底的に描くことに成功した作品である。スラッシュメタルでは速さが極めて重要視されるが、スレイヤーは世界観を追求することにも尽力するバンドであった。不気味なアルバム・ジャケットそのままの陰惨な世界観は、まさにスレイヤーが描いてきた悪魔の世界のそれであり、聴く者を恐怖で震え上がらせる。平凡な現実とは異なった未曾有の世界に、必ずやファンはカタルシスを覚えることであろう。それこそ、キリスト教や既存の概念に縛られることがないスレイヤーの音楽性である。本作『South of Heaven』は、間違いなく聴くに耐える作品である。
1. South Of Heaven
頽廃的で邪悪なメロディが要の本作を代表する名曲。スピードを落としたとしても、この楽曲から退屈な部分は見当たらない。
2. Silent Scream
サタニックなリフが怒涛の勢いで突進する。前作の圧倒的なスピードに加え、洗練されたメロディを有したところは間違いなくスレイヤーにとって大きな進化である。本作はメロディの向上面においても注目すべきであろう。
3. Live Undead
ドラマ性を増したリフが背後で鳴る。ただ緊張感の抜けた退屈な部分があることも否めない。
4. Behind The Crooked Cross
一定の速さを保ちながら行進する。
5. Mandatory Suicide
威圧感さえ感じるサタニックなメロディから幕開ける楽曲。その後、破壊的なリフへと移動しながら随所にメロディアスなフレーズを挟む。「Suicide」と連発する歌詞も印象的だ。
6. Ghosts Of War
本曲からも、トム・アラヤ(vo)が歌詞を意識して歌うようになったことが分かる。それが楽曲に新たな説得力を与えた。
7. Read Between The Lies
各楽曲の練られ方は非常に進歩している。ヘヴィなリフに邪悪な旋律が絡む。
8. Cleanse The Soul
強烈なスピード感を宿す。間違いなく、本作が遅くなったとの批判を受けたのは、一部の楽曲に固執した意見である。後半には印象的なメロディも配する。
9. Dissident Aggressor
重厚極まるリフが悪魔の軍団の行進のように突き進む。奇声のように唸りを上げるリードギターが魅力的。以外にもトム・アラヤはメロディらしきものを歌っている。
10. Spill The Blood
メタリカとは違い、アコースティック・パートの導入は当時大きな物議を醸し出した。しかし本曲こそは、本作の作風を代表するメロディアスな名曲である。
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Country: United States
Type: Full-length
Release: 1986
Reviews: 91%
Genre: Thrash Metal
スレイヤーの1986年発表の3rd。
ヘヴィメタル史にその名を刻む名作は数あれど、スレイヤーの第3作『Reign in Blood』ほど過激な歴史的名作は存在しない。全10曲およそ30分という怒涛の内容は、正直何が起こっているのかすら分からない凄絶さである。これほどまでに過激な音楽を、スレイヤーはいとも簡単に完成させてしまった。もはや我々が表現する言葉など、この偉大な傑作の前では脆弱な戯言でしかない。「言葉で説明するより聞いた方が早い」という格言は、まさに本作に当てはまる。
1. Angel Of Death
ナチスの虐殺者ヨゼフ・メンゲレについて歌ったという、スレイヤーの名曲中の名曲。この過激極まる楽曲をアルバムの冒頭に配すところも凄いが、この後も更なる衝撃が立て続けに襲いかかる。
2. Piece By Piece
およそ2分の中を、静から動へと破壊的に行進する。
3. Necrophobic
1分半しかないが、怒涛の突進を披露する。まさに何が起こっているか分からない、といった状況である。
4. Altar Of Sacrifice
サタニックなスレイヤーの楽曲を更に過激に進化させたスラッシュメタル。暴虐的なリフ、ドラムが縦横無尽に悪魔の饗宴の様を披露する。
5. Jesus Saves
形容する言葉が見当たらない。
6. Criminally Insane
破壊的なスピードで一気に突進する楽曲。しかし、本作の殆どの楽曲にも同じような表現が適用される。
7. Reborn
重々しいがスピード感のあるリフが無慈悲に叩きつけられる。
8. Epidemic
一層鋭利な刃物のようなリフが刻まれる。途中から転調もある。
9. Postmortem
印象的なリフから開始。破壊的な中にも理不尽な構成力、そして展開力が紛れ込んでいる。
10. Raining Blood
スレイヤーの邪悪な世界観を極限まで極めた名曲。血の雨の降るSEからメロディアスなリフへの流れはあまりにも有名。ブラックメタルを遥かに凌駕した生々しい血の惨劇を連想させる部分は、最もおぞましい恐怖以外の何物でもない。真の恐怖とは、このように決して安易なものではないのだ。近年特に、我々は恐怖の表現を軽んじて用いてしまっている。
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Country: United States
Type: Full-length
Release: 1985
Reviews: 85%
Genre: Thrash Metal
スレイヤーの1985年発表の2nd。
ケリー・キング(g)、トム・アラヤ(vo、b)、ジェフ・ハンネマン(g)、デイヴ・ロンバード(d)というアメリカで結成された4人組のスレイヤーは、その異様極まるバンド名と共に、スラッシュメタル界に俗悪な名を轟かせていた。記者をして「"Hell Awaits"は、当時のメタル・シーンにおいて最も邪悪で陰惨で病的なアルバムだったと断言できる」とまで言わしめるスレイヤーの第2作『Hell Awaits』は、発売されるや否や世界各地をどす黒い衝撃で襲った。
本作が一般人の手元に渡ると、まず悪魔崇拝、黒魔術、死体性愛を堂々と歌った歌詞が問題視され、瞬く間にスレイヤーは恐怖の存在と化した。スレイヤー畏怖の最大の原因となったのが、紛れもなく『Hell Awaits』に表現された凶悪なサウンドであった。ヴェノム系列のブラックメタルであることは確かだが、パンクやハードコアを極限まで突き詰めた横暴なまでのスピード感は、当時のスラッシュメタル慣れしていない若者にとっては過激すぎた。
現在ではスレイヤーの素性も知られ、彼らが素晴らしいヘヴィメタルバンドであり、メンバーも卓越した人格者であることは既に明らかだが、容易に情報を入手できなかった時代において、如何にスレイヤーの生みだしたスラッシュメタルが斬新で革命的なものであったか、我々は『Hell Awaits』を手にとって事実を確認する必要性があろう。
1. Hell Awaits
2分近く謎の言葉を発する冒頭から異様な雰囲気が漂う(一部では、その言葉が日本の西行法師ではないかという疑惑が持ち上がった)。スレイヤーの生みだした初期の傑作であり、劇的な構成と狂気に満ちる攻撃性が迫真性を伴って襲い掛かる。
2. Kill Again
凶暴なメロディを伴ったリフ、圧倒的なデイヴ・ロンバートの超絶技巧のドラムが融合した名曲。耳を疑うスピードで破壊の光景が散々に描かれていく。
3. At Dawn They Sleep
暴虐的なリフの的確な波状攻撃が不気味さすら感じさせる。中間部分から転調し、メロディアスな面も垣間見せつつ更に暴れまわる。
4. Praise Of Death
破壊的な衝動に駆られるリフ、スピード感が怒涛のアグレッションを生み出す。前方に突進するかのようなリードギターが危機迫る勢いである。
5. Necrophiliac
悪魔が飛び交う様を表現したようなギターの旋律が印象に残る。凶暴なリフが周囲を駆け巡る様は圧巻。
6. Crypts Of Eternity
地獄への階段を上るかのような、苛烈なリフが非常に格好いい。スレイヤーの楽曲の構成力が単純な攻撃性から生じていないことも、既に明白である。
7. Hardening Of The Arteries
最後に#1"Hell Awaits"に似た構成に繋がる。トム・アラヤ(vo)のヴォーカルが狂気に駆られているようで凄まじい。
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Country: United States
Type: Full-length
Release: 1983
Reviews: 81%
Genre: Thrash Metal
スレイヤーの1983年発表の1st。
過激な音楽性を追求したヘヴィメタルのスタイルは、後にスラッシュ・メタルとして世界各地のアンダーグラウンド・シーンに定着することとなる。スレイヤーはその代表的なバンドとなった。本作は、サウンド面は粗削りだが、既にサタニックでエクストリームな世界観が描き出されている。また、当時のスレイヤーは、イギリスのヴェノム(Venom)から強い影響を受けていた。そのことがはっきりと分かる作品。
1. Evil Has No Boundaries
2. The Antichrist
3. Die By The Sword
4. Fight Till Death
5. Metal Storm/Face The Slayer
6. Black Magic
7. Tormentor
8. The Final Command
9. Crionics
10. Show No Mercy
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Country: United States
Type: Full-length
Release: 1988
Reviews: 90%
Genre: Thrash Metal
メタリカの1988年発表の4th。
メタリカは自身のスラッシュメタルを初期の三枚の作品の中で進化させ続けてきたが、辿りつくべき耽美の終着点はあった。それが紛れもなく本作『...And Justice For All』であり、我々はここに表現された至高のヘヴィメタル的芸術を絶賛してやまない。メタリカの攻撃的な作品の中で最も複雑に絡み合う本作の楽曲群は、大成功を収めた前作『Master Of Puppets』(1986)のサウンドを更に凌駕するプログレッシブさで聴者の知覚を刺激する。針に糸を通すような緻密な構成はどれも驚嘆に値する精度だが、メロディに関しては更に芸術的である。英国を彷彿とさせる高潔な旋律は、"...And Justice For All"、"One"、"To Live Is To Die"で極められ、それは同時にメタリカの追求し続けてきた世界観が完結したことを物語っている。本作はメタリカの至高の芸術を表現した大作であり、知的な世界と相俟って、我々にヘヴィメタルの深遠さを告げている。
メタリカにとって大きな変化もあった。ベーシスト、クリフ・バートンの死である。彼は1986年にスウェーデンをツアー中のバスが起こした交通事故に巻き込まれ、不運にも生涯を終えた。残されたメタリカのメンバーは悲観に暮れたが、生前のクリフの意思を思い出し、活動は継続された。しかし如何に強靭な精神を持ち合わせているメタリカでさえ、理不尽な現実を前にして動揺しないわけではなかった。クリフの後にバンドに迎えられたジェイソン・ニューステッド(b)加入後の本作では、気持ちの整理がつかないメタリカのメンバーとの間に確執が生じ、ベースパートが殆ど聞こえない状態で発売された。それが本作の唯一の欠点として後に浮き彫りとなったが、当時のバンド内の葛藤、そして不満を生々しく表現した真実の記録として、ここに『...And Justice For All』は残されている。現実には理不尽な出来事があまりにも多過ぎるのだ。
1. Blackened
スラッシュメタルの歌詞の題材として頻繁に用いられる、核戦争──正確には、核戦争によって廃墟と化した世界の惨状──について歌った楽曲。メロディアスなオープニングを配し、シリアスかつドラマティックに聴かせる。
2. ...And Justice For All
本作のハイライトであり、メタリカの芸術点をすべて凝縮したような名曲。映画『...And Justice For All(邦題:ジャスティス)』(1979)に触発された楽曲であり、権力の横暴や金によって人々が如何に堕落していくかを歌う。メタリカの知性が前面に押し出されたかのような、複雑かつ劇的な展開を有する。中間部の重厚なメロディへの展開は、ドラマティシズムを極めている。
3. Eye Of The Beholder
選択の自由を訴えた楽曲。ザクザクしたリフが歯切れよく突き進む。
4. One
ダルトン・トランボーの小説『ジョニーは戦場へ行った』を題材とした名作。メタリカ初のビデオ・クリップが制作された楽曲であり、ビデオには原作の映画の映像が用いられた。内容はまさに真実を明かした戦場の惨劇に相応しく、信じられないような美しい前半パートから、怒号のリフを伴う後半パートへの流れは凄まじい。本曲は、1990年のグラミー賞のベスト・メタル・パフォーマンス部門を受賞した。
5. The Shortest Straw
6. Harvester Of Sorrow
7. The Frayed Ends Of Sanity
8. To Live Is To Die
クリフ・バートンの書きためていた詩をモチーフにしたメタリカ最大のインストゥルメンタル。気品をも感じさせる魅惑的なアコースティック・パートから始まり、徐々に壮絶なギターパートへと展開していく。思うに、メタリカが生み出した究極のインストゥルメンタル楽曲であろう。
9. Dyers Eve
10. The Prince
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Country: United States
Type: Full-length
Release: 1986
Reviews: 93%
Genre: Thrash Metal
メタリカの1986年発表の3rd。
メタリカは社会的に孤独であった。過激な音楽性故にラジオ、テレビでのプレイはほぼ皆無であり、常にアンダーグラウンド(地下)でのライブが主な宣伝活動に値した(腐敗した社会では、真実は真っ先に排除された)。メタリカは『Kill 'Em All』(1983)、『Ride the Lightning』(1984)という傑作でヘヴィメタル・シーンに殴り込み、スラッシュメタルという新しいジャンルを開拓して覇権を手にするも、王者が直面したのはそれらのメディアからの一方的な拒絶という現状であった。当然の如く、新作にもビデオクリップは制作されなかった。
賢明なメタリカは最初からメディアの反応など全く気にしてはいなかった。社会的にヘヴィメタルが蔑まれようとも、メタリカにとって唯一信じられたものは、既に過去の名曲が語っているように、自らの信念と忠実なファンのみであったのだ。1986年、メタリカは満を持して第3作『Master Of Puppets』を発表する。まず我々が度肝を抜かれたのは、本作がビルボートの29位にランクインし、ゴールド・ディスクを獲得したことであった。メタリカはメディアの露出という唾棄すべき行為に甘んじることはなく、バンドの実力のみでこの成功を獲得したことは、讃えられるべき功績であることは間違いない。メディアの助力なしに成功を手にするバンドが極めて少ないことは、我々が一番良く知っていることである。更に本作に収録された楽曲に関して、我々は更に度肝を抜かれることとなった。すべてが前作を上回る圧倒的な構築感と展開力を有し、スラッシュメタルを超越した美学を内包していたのだ。8曲というシンプルな構成であるにも関わらず、収録曲は何れも細部まで練られており、無駄な時間をファンに与えないというメタリカの信条が伝わってくる作風であった。当時のメディアが本作を無視したことは恥ずべき行為だが、これほどまでに緻密で複雑で耽美的な作品を一般音楽を耳にしているような聴衆が理解できたとは到底考えようもない。真実とは、常に人目の付かないところで隠されているものだ。そう、このヘヴィメタル史上に残る偉大な傑作『Master Of Puppets』のように……
1. Battery
不穏なアコースティック・ギターによる冒頭部分は前作と同様。しかし、衝撃という意味合いではこちらの方が上。怒涛のスピードを誇り、メタリカ史上でも最高の位置に属する名曲である。歌詞では、バンドとファンの結束について歌われている。
2. Master Of Puppets
人間を束縛する薬物の恐怖を描くタイトル・トラック。複雑な構成を持ち、中間部からは劇的なリードギターの旋律が堪能できる。明白なのは、メタリカは物語を描くような表現力をも身につけているということである。
3. The Thing That Should Not Be
H・P・ラブクラフトの怪奇小説『インスマスの影』にインスパイアされた楽曲。代表的なヘヴィメタルバンドであるメタリカが、過去の幻想作家から作詞に影響を受けていることは、興味深い概要に値する。暗澹たる物語の世界観に合わせて、ヘヴィかつダークな曲調を使い分けている。
4. Welcome Home (Sanitarium)
シリアスな雰囲気からも分かる通り、メタリカの楽曲は急速に知的になったことが伺える。メロディアスな歌から重厚な展開へと流れていく。ギターのメロディは非常にシビアである。
5. Disposable Heroes
戦場で使い捨てにされる兵士の悲劇を描く、鋼鉄のリフを用いた破壊的なスピード・ナンバー。圧倒的な存在感を誇り、兵士が戦場を逃げ回るように、高速のギターが荒れ狂う。その暴虐的な光景は、まるで軍事社会に対して怒りが叩きつけられているかのようである。
6. Leper Messiah
ミドルテンポで重厚なスラッシュ・リフが行進する。
7. Orion
星座をモチーフにした劇的極まりないインストゥルメンタル。まるでギターのメロディが夜空に輝く星々のように優雅に煌く。芸術と表記しても可笑しくはない奇跡的な名曲。
8. Damage, Inc.
ギターを用いてオーケストレーションのような音を奏でるイントロ部分が印象的だが、本曲の正体は#1"Battery"に匹敵する凄まじいまでのスラッシュ・メタルである。最後まで過激な楽曲を提供するメタリカのスタイルからは、清々しさすら感じる。
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Country: United States
Type: Full-length
Release: 1984
Reviews: 89%
Genre: Thrash Metal
メタリカの1984年発表の2nd。
「メタリカはただのスラッシュメタルバンドではない」我々はその言葉を直に実感させられることになった。第一作『Kill 'Em All』(1983)で圧倒的な攻撃性を披露したメタリカは、矢継ぎ早に発表した本作『Ride the Lightning』で劇的ともいえる進化を見せた。本作に表現された方向性は、メタリカの特異性を決定付けると同時に、メタリカの将来が有望である事実をも物語っていた。商業音楽では絶対に不可能な「死」というシリアスなテーマを題材とし、重厚感を増したヘヴィネスと速射砲のようなリフの高速連射を多用し、本作は圧倒的な完成度を合わせ持つことに成功した。またスラッシュメタルという分野からは想像もつかないほどメロディアスな旋律を導入した楽曲群は、何れも英国(ブリティッシュ)に匹敵するプログレッシブな叙情性を宿している。当時これほどまでに劇的で攻撃的なスラッシュメタルを受け入れないファンなどいなかったであろうことは、現代の作品を差し置いても全く想像に難くない。
1. Fight Fire With Fire
アコースティック・ギターで幕開ける衝撃的な展開。その後、過激極まる怒涛のリフが繰り出される。後に数えきれないほどのバンドがこの手法を真似たというのは、殆ど事実であろう。
2. Ride The Lightning
劇的なメロディと凄まじい攻撃力を持つ名曲。中間部の圧倒的な展開の様には思わず息をのむ。
3. For Whom The Bell Tolls
ドラマティックなリフが頭を振らせる。鐘の音が用いられている。
4. Fade To Black
バラード調の展開を持ち、徐々に盛り上がる。叙情的なメロディは美しさすら感じさせる。メタリカの音楽は過激である一方、実に耽美的な魅力をも有しているのである。
5. Trapped Under Ice
硬派な金属音に荒れ狂うギターリフが印象的。
6. Escape
メロディアスな部分を強調した楽曲。サビの叙情的なフレーズからは、メタリカが決して歌を捨てていないことが分かる。
7. Creeping Death
重厚感を伴うスピーディな名曲。メタリカの楽曲の構成力が如何に優れているか分かる。中東風の雰囲気を持っているのも興味深い。
8. The Call Of Ktulu
H・P・ラヴクラフトのファンであるというカーク・ハメット(g)が持ち込んだイメージをそのままに、名作『クトゥルフの呼び声』をインストゥルメンタルで表現した大作。重厚なリフが禍々しくも連なる様は圧倒的である。間違いなく大傑作に値する。
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Country: United States
Type: Full-length
Release: 1983
Reviews: 85%
Genre: Thrash Metal
メタリカの1983年発表の1st。
我々はよくヘヴィメタルの比較としてアイアン・メイデンの名を用いるが、1981年にアメリカのロサンゼルスで結成されたメタリカの第一作『Kill 'Em All』の衝撃は『Iron Maiden』(1980)に匹敵するものであった。アグレッシブなサウンドで名を馳せたモーターヘッドの攻撃性を更に鋭角に研ぎ澄ませたような本作の暴虐性は、当時のヘヴィメタル・シーンの形成において、極めて重要な役割を担っていた。
ジェイムズ・ヘットフィールド (vo、g) とラーズ・ウルリッヒ (d)という怒れる若者を中心に結成されたメタリカは、社会への矛盾という標的に対し、スラッシュメタルという強烈な武器を用い、爆撃機並のスピードで攻撃を開始したのである。理不尽な社会に対し葛藤していた若者が、何れメタリカのような音楽性に辿りつくのは時間の問題であった。最初『Kill 'Em All』は売れなかったが、翌年に本国での国内盤が発売されたように、本作の知名度は瞬く間にアメリカ、イギリスを駆け巡った。しかし、その異例の成功は、ヘヴィメタルで最も偉大なバンドとなるメタリカの伝説の序章に過ぎなかった。
1. Hit The Lights
本作の先陣を切るアグレッシブなナンバー。メタリックなリフの破壊力が凄まじい。
2. The Four Horsemen
初期の傑作であり、メロディアスな旋律に加え劇的な展開力を有する。後に芸術的とまで形容されるメタリカのヘヴィメタルだが、既にこの頃から才能は開花していた。
3. Motorbreath
一方的な攻撃性の中に、僅かな転調やドラマ性を宿らせる部分は、メタリカがただのスラッシュメタルバンドではないことを物語っている。
4. Jump In The Fire
ノリのいいメタリックなリフが光る佳曲。
5. (Anesthesia) - Pulling Teeth
今や伝説のベーシストと謳われるクリフ・バートン(b)のインスト。ベースとは思えないほどにメロディアスなフレーズは、衝撃以外の何物でもない。
6. Whiplash
7. Phantom Lord
8. No Remorse
9. Seek And Destroy
10. Metal Militia
メタリカの荒々しさを詰め込んだ楽曲。大仰なまでに突進する潔さが素晴らしい。
Column the Column
volume 11. 23 May: 2011編注 『METAL EPIC』誌に送りつけられてきた日付未記載のこれらの散文は、コスマン・ブラッドリー博士が推測したものと思われる仮説であり、未完成と思われる箇所が存在し、内容の判断は本誌の読者個人に委ねられる。アメリカのカルト・エピックメタル、キリス・ウンゴル(Cirith Ungol)とヒロイック・ファンタジーの関連性を指摘した異様な内容を含む本文は、一部削除しての掲載とせざるを得なかった。
* * *
キリス・ウンゴル──彼らの存在がヒロイック・ファンタジーの歴史と行く末を物語っている。アメリカの地下世界でカルト的な人気を誇ったキリス・ウンゴルは、1981年に『Frost & Fire』でデビューし、4枚のアルバムを残して解散した。キリス・ウンゴルは、エピックメタルの隠された歴史を紐解く鍵を握っていると、長らく私は考えていた。限られた僅ばかりの信者らは、今でも偉大なキリス・ウンゴルの名を覚えており、時にはその漠然とした旋律を口ずさむ。地下納骨所の黴と蜘蛛の巣だらけの扉を開けた者だけが目にするという、伝説のティム・ベイカー三部作の荘厳な嘶きをである。
キリス・ウンゴルの隠避的な物語が、地上の微光を遮って伝えられてきたのは事実であった。音楽史の最も暗い影に埋もれているカルト的なエピックメタルバンドが、今なお一部の地域で崇拝され続けている現状。その異常性は既に疑いようのない出来事となって、私の脳髄を直撃した。キリス・ウンゴルの音楽──紛れもないエピックメタル──は、〈古き世界〉のもの、加えて古典的な内容を含んでいた。キリス・ウンゴルは、イギリスのホークウインドがかつて『Warrior On The Edge Of Time』(1975)で提示したような、信者に永久に愛される『エルリック』、『指輪物語』等を楽曲の題材として用いていたのである。
詳細には、キリス・ウンゴルの得体の知れないエピックメタルに内包された太古の時代の波動が、現在も僅かばかりの信者の潜在的な弦線に触れているものと思われる。その者らはカタコンベの墓守の血を受け継ぐ者らであるか、厳粛な古代の知識の担い手のように、無意識の領域でヒロイック・ファンタジーの伝説に惹かれている者らである。これは純然たる真のエピックメタルが、アウトサイダー以外では認識できない虚弱な波動を叙事詩的な楽曲から発し、その者らに太古の伝承を途絶えさせないというある種のメッセージを送っている可能性の指摘である。そのメッセージとは、英雄主義的な思想を促進させ、これらの物語を根絶させるのを未然に防ぐような、潜在的意識の啓示によるものであると、私は思っている。このような背景が存在していなければ、私は少数派であり続けたヒロイック・ファンタジーが現在まで受け継がれてきた状況に対し、依然として大きな疑問を投げかけることになり兼ねない。
太古の世界の朧気な陽光を目にした者らによって、今後もヒロイック・ファンタジーの世界は残り続けるものだと願いたい。詰まるところ、エピックメタルの隠された秘密とは、この分野が紛れもなくヒロイック・ファンタジー消滅の危機を回避させてきた最大の要因であったという、殆ど漠然とした確証であったことに他ならない。
Column the Column
volume 10. 9 May: 2011欧州やアメリカの一部の地域を除いては未だに認知に乏しいエピックメタルについて、コスマン・ブラッドリー博士が語ってくれた。以下は、その一部始終を記録したものである。
──ヴァイキングメタルやブラックメタルが世界各地に勢力を拡大していく中、エピックメタルは現在も伸び悩んでいるようです。
コスマン:ヘヴィメタルの創造初期から活動を続けていたエピックメタルが現在も認知の乏しい現状にあることは、もはや見逃せない事実となった。エピックメタルの主なバンドを挙げてみると、アメリカのマノウォーやヴァージンスティール、欧州のドミネなどが浮かび上がるが、これらの名を確認した上で、何故エピックメタルが伸び悩んでいるかは明白なことだ。中でも確かにマノウォーは偉大なバンドだが、ドイツでの異常な人気に相反して、母国アメリカの土俵ではそれほど圧倒的な知名度があるわけではない。ヴァージンスティールに関しては、才能と実力があるのにも関わらず、エピックメタル・シーンを除いては殆ど知られていない。イタリアのドミネに至っては更に絶望的であり、カルト的な地下世界に人気が押し留まっている。ヴァイキングメタルの場合、フィンランドのエンシフェルムやムーンソロウがいる。ブラックメタルの場合は世界的に有名なクレイドル・オブ・フィルス、ディム・ボイジャー、メイヘムがいる。しかし明確にエピックメタルと断言できる代表的なバンドは、上記に列挙したマノウォー、ヴァージンスティール、ドミネくらいしかおらず、その何れも世界的な音楽シーンから遠ざかっている。
──ドミネと同じイタリア出身のラプソディー・オブ・ファイアは、エピックメタルでも世界的な成功を収めたバンドの一つです。
コスマン:先程私が言ったように、純然たるエピックメタルバンドはそう多くない。これは重要な事実でもある。ラプソディー・オブ・ファイアはエピックメタルだが、詳細にはシンフォニック・エピックメタルの分野に所属する。私はヘヴィメタルバンドをエピックメタルとして形容する際、正統派とシンフォニック派を区別するようにしている。詰まるところ、ラプソディー・オブ・ファイアはエピックメタルであるという認識よりも、シンフォニックメタルやハリウッドメタルとしての名が取り上げられているバンドだ。今まで様々な分野から"エピック"と形容されたヘヴィメタル作品が登場してきたが、その形容はあくまで付加価値に過ぎなかった。この逆境の時代にエピックメタルというキャッチコピーで売り出すバンドはヴァージンスティールくらいしかおらず、その行為自体が商業的な自殺行為に値する。アルバムをエピックメタル作品として売り出すよりも、メロディック・パワーメタルやヴァイキングメタルと帯を付けて宣伝する方が、より広い層にアピールできることは既に明白だからだ。ヴァージンスティールは成功も収めているが、人気がカルト的と判断せざるを得ない。エピックメタルという看板を背負うことは、堅実なヘヴィメタル界でも容易なことではない現状が、未だ各所に残されている。
──つまりラプソディー・オブ・ファイアなどのバンドはエピックメタルバンドではない、ということでしょうか。
コスマン:その解釈にも誤りがある。元来古代の神話や伝承、文学的な作家からのインスパイアによって形作られてきたヘヴィメタルの詩的な世界観は、何れも叙事詩的に成り得る可能性を秘めている。後は大仰なサウンドや劇的な曲調が必要なだけで、エピックメタルと形容できるバンドは山ほどいる。しかし、伝統的なエピックメタルバンドは少ないという盲点を、私は指摘している。我々のような信仰深いエピックメタルのファンは、文学においても、好古趣味的な収集品においても、常に純潔のものを追求する傾向にあるのだ。
──その結果、純粋なエピックメタルバンドは少なくなっていった、そう解釈してよろしいでしょうか。
コスマン:全くその通りである。
──では、どうすればエピックメタルがヘヴィメタル・シーンに深く浸透すると思いますか。
コスマン:まずバンド自体が明確な看板を掲げ、曖昧な表現を避けることが重要に思われる。現在ではメロディック・パワーメタルもエピックメタルと形容されている時代であるし、個々のバンドの所属する分野を明るみに引き上げる必要がある。バンドが自らの作品の方向性を仕分けしない場合、やがてファンが無差別に音楽性や世界観を形容することになる。ヘヴィメタル・シーンの場合は賢明なファンが多いため、ある程度は一役買ってはいるものの、やはり曖昧な表現は避けたいところだ。またバンドによっては意図的に情報を網羅せず、ファンに判断を任せる場合もあるため、この問題は非常に入り組んでいる。最も深遠なヘヴィメタル作品にとっては、情報を一方的に提示することが決して良い判断であるとは限らない。ジャック・ヴァンス(*)のような「作品について一概に語る必要はない」という姿勢もあり得るのだ。ヘヴィメタル・シーンも個々の思想の集合体であるために、星の数ほどジャンルが存在するものの、覇権を握っているのは一部の分野に過ぎない。エピックメタルが夜明けを見るのは、まだまだ先のことになる。
*アメリカのSF作家。地球とは異なる惑星などの異世界を描き出すのに定評がある。代表作は『竜を駆る種族』(1962)、『終末期の赤い地球』(1950)等。
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Country: United States
Type: Full-length
Release: 2010
Reviews: 88%
Genre: Epic Metal
揺るぎなき王座に鎮座するエピックメタル・シーンの帝王、ヴァージン・スティールの2010年発表の12th。
エピックメタルの始祖の一柱であるアメリカのヴァージンスティールについて、我々はその歴史を追求し続けてきた。絶え間なき尽力と苦労によって、叙事詩的なヘヴィメタルという偏った研究分野の資料はある程度は完成したものの、老いてなお盛んなヴァージンスティールを完全に総評し尽くしたわけではなかった。我々は様々な記憶を振り返る。恰も文明の興亡の歴史を垣間見るかのように。終わりなき探求の過程において我々が下した判断は、ヴァージンスティールこそがエピックメタルの最重要バンドであるという事実であり、ヴァージンスティールを差し置いて真のエピックメタルファンが聴くに値するバンドは存在しないということであった。ヴァージンスティールは今なお、未来へと突き進む知性の進化であるように、ゆっくりとではあるが前進を続けている。
創世記の時代に神に反逆した女性リリスを扱った前作『Visions of Eden』(2006)は、その年のエピックメタル・シーンにおける最大級の成功を収めた。ファンの求める方向性に加え、既存の音楽という分野を超越した叙事詩的な大作『Visions of Eden』は、各方面から芸術の域に達したエピックメタル作品であると絶賛された。それは、バンドの結成からおよそ25年以上経過しようとしているヴァージンスティールが現在も創作意欲に満ち溢れ、確固たる実力を所持していることの証明に他ならなかった。当然の如く次回作への期待は高まったが、リリス・プロジェクトが完結していないのに加え、傑作である『Visions of Eden』の唯一の問題である音像の改善点などが徐々に浮き彫りになっていった。足早にヴァージンスティールの新作はリリスの続編であるとも吹聴されたが、結果的に発表された作品は別の内容を持っていた作品であった。
ここに発表された第12作『Black Light Bacchanalia』は、前作での失敗を考慮し、若かりし頃のアグレッションに満ちた作品となった。デイヴィッド・ディファイ(David Defeis:vo、key、b)が尊敬してやまないレッド・ツェッペリンに最初に見出した音楽性をヒントに原点回帰した本作は、従来のヴァージンスティールの世界観を踏襲しながら、実に充実した攻撃性とドラマ性を宿したエピックメタルの傑作に仕上がった。前作でも密かにプレイしていたジョシュ・ブロック(Josh Block:g)を新たなメンバーに迎た新生ヴァージンスティールは、順風満帆であるばかりか、更なる進化を遂げていることは明白な事実である。
本作ではリリスの続編的な物語も各所に導入されるが、前作や伝説的な「マリッジ三部作」の根底にあったグノーシス主義的な思想に触発され、その二言論が指し示す"善"と"悪"の対極の世界観であるように、キリスト教と古代宗教の因果関係について歌われていく。我々がよく指摘するロバート・E・ハワードの<古き世界>と<新しき世界>やマイケル・ムアコックの<秩序>と<混沌>の対立のように、文明と未開の宿命的な関係性を描くことは、エピックメタルが長らく用いてきた世界観であり、ヴァージンスティールが題材にすべき意味深な内容であった。ヴァージンスティールは緩急に富む劇的でヒロイックなエピックメタルを用い、それらの世界を野蛮にして繊細な描写で描いている。
ノルウェーのハラルド美髪王がキリスト教に改宗したように、古代から続く対立は今なお各地の辺境で続いている。元来古代宗教は力を握っていたのだが、新興勢力であるキリスト教によって弾圧さた歴史を持ち、文明圏の民衆に異教と解釈されて久しい。ここに来て我々は、古代の英雄譚を思い出さなくてはならない。過去に崇拝された英雄が最初から人間であったように、古代宗教も決して最初は異教などではなかったのである。歳月の経過は様々な変化を齎す。潔白な文明人によって、次第に古代の信仰は唾棄すべきものであると考えられていったのである。人類の歴史とは過ちを繰り返した上に成り立っている。
叙事詩を描くことに長けるヴァージンスティールが新たに描き出した古典的な逸話に対し、我々は何を感じ、何を得るであろうか。理解力のある人間であるならば、我々の属する既存の世界がある一種の法則に縛られていることが分かる。饗宴にあやかる野蛮人のようなヴァージンスティールの傑作『Black Light Bacchanalia』は、その知識を押し広げるきっかけでもあるのだ。
1. By The Hammer Of Zeus (And The Wrecking Ball Of Thor)
ゼウス(ギリシア神話)とトール(北欧神話)の槌を掛けた名曲。前作の"Immortal I Stand(The Birth Of Adam)"に連なる構成を持ち、流麗なエピックメタルの美学が光る。サビの強烈なシャウトの放つ攻撃性は、ヴァージンスティールに野蛮さが戻ってきたことを雄弁に物語っている。
2. Pagan Heart
魔女裁判の業火であるように、異教徒の精神が失われていく悲劇を物語る。エピカルなリフを刻みながら、シンフォニックなフレーズが繰り返される。暗く悲壮感に満ち溢れているのは、シリアスな楽曲の題材を考えれば当然の成り行きであろう。
3. The Bread Of Wickedness
リリスに関連する楽曲。スピーディなエピックメタルでかつ印象的な旋律を含みながら、従来のヴァージンスティールよりシンプルにまとまっている。サビの哀愁を纏った飛翔感は素晴らしいし、もう少し練ることができたのならば名曲になっていたかも知れない。厳かなエピックメタルの雰囲気は相変わらず。
4. In A Dream Of Fire
アダムの最初の妻であったリリスとの再会。神秘的なピアノに絡むヴァースラインが印象を強める。速度を増すサビは高揚感に満ち溢れてはいるものの、どこか悲壮感が漂う。恰もそれが創世記の悲劇であるかのように。
5. Nepenthe (I Live Tomorrow)
最愛のものを失った深い悲しみ。最初の人間らも今の我々と同じ感情を持っていたのである。ヴァージンスティールの楽曲中、最高の位置に属するエピック・バラードの名曲であろう。静寂に満ちた雰囲気がサビで壮大なスケール感に包まれる様は一聴の価値あり。
6. The Orpheus Taboo
攻撃性に富んだ大作。前作でのギターやドラムの音が軽いといった批評は、ここで改善された感がする。伸びやかにドライヴするエピック・リフはヴァージンスティールらしい。本作は一部で冗長過ぎるとの酷評を受けているが、この楽曲に関しては後半に劇的な展開を有している。
7. To Crown Them With Halos Parts Ⅰ & Ⅱ
天使のような美旋律を持つ名曲。まるで過去の名曲"Crown Of Glory (Unscarred)"のように幕開ける。劇的なヴァース部分に他ならず、讃美歌調のサビのメロディの持つ神秘性には思わず耳を疑う。ただクワイアを重ねただけの大仰なシンフォニックメタルでは、絶対にこのような深遠極まる旋律は生まれてこない。これで後半の冗長な部分を削っていれば、間違いなく神曲になったであろう。
8. The Black Light Bacchanalia (The Age That Is To Come)
古代ローマのワインの神バックス(Bacchus)を称える酒宴の踊り、それがバッカナリアである。恐らくディファイは神聖な祭典ではなく、一種の饗宴の様を表す引用としてこの言葉を引っ張って来たのであろう。例えるなら、神妙な神々の祭壇で狂気する野蛮人のそのあり様である。黒々としたリフ、不穏な歌い出し、ロマンティックなサビへの劇的な転調といったエピックメタルの基本を押さえている。
9. The Torture's Of The Damned
従来の古代ギリシア・ローマ風の旋律を徐々に盛大に盛り上げていく楽曲のように聞こえるが、実はリリス関連の楽曲。短くも古典劇の音楽であるような、歴史感の漂う壮大な雰囲気が素晴らしく視覚を刺激する。
10. Necropolis (He Answers Them With Death)
ネクロポリスとはギリシア語で"死者の都"。一方、アクロポリス(Acropolis)とは地上の人々──実際にはパルテノン神殿のような高い場所に住む人々──のことを指す。アグレッシブな曲調のスピード・エピックの傑作であり、本作の中でも特筆して完成度が高い。サビ部分でのフランク・ギルクリーストのドラムプレイは非常に強烈。これはフランクが紛れもないドラムの名手であることを証明している。
11. Eternal Regret
神の後悔。神と最初の人間らの生み出した悪しき感情から7つの大罪が生まれたように、狂った歯車はもう戻ることはない。バラード調の神秘的な名曲であり、人間の潜在的な部分を刺激する意味深な旋律を含んでいる。本曲は特に異様な雰囲気を醸し出しており、得体の知れない感情を掻き抱かせる。この神聖な世界観を堪能するために、我々はヴァージンスティールの楽曲を拝聴し続けてきたのだ。これまでも、これからも。