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-Scott Columbus-



「かくして、オーディンの手により不滅の戦士はヴァルハラの門を潜り伝説となった」
 ──"Hymn Of The Immortal Warriors"より

columbus_scottスコット・コロンバス追憶
 今から30年以上も昔のことだった。80年代初期のヘヴィメタルという音楽は若く、アメリカでは支持者も少なかった。同じように、エピック・メタルの王者マノウォーも、楽器の練習を重ね、毎日のように演奏技術の向上に勤めていた。
 マノウォーのメンバーがまだ若い頃に制作された第2作『イントゥ・グローリー・ライド~地獄の復讐~』の中には、不世出のドラマー、スコット・コロンバスの最初の功績が残されていた。マノウォーがエピック・メタルの基礎を他の先人たち──キリス・ウンゴル、マニラ・ロード、ヴァージン・スティール──と築きあげようとしていた時期、スコット・コロンバス自身も、その名をロック音楽史に刻み込んだ。
 軽快なロックンロールのイメージから始まったマノウォーの歴史を変えたのは、スコット・コロンバスの重厚なドラム・プレイだった。スコット・コロンバスが最初に加入して制作された『イントゥ・グローリー・ライド~地獄の復讐~』は、後のマノウォーの音楽的な方向性を決定付けた。当時のヘヴィメタルのファンたちは、この一流のミュージシャンによるドラム・プレイを絶賛し、兄弟たちの輪の中へと迎え入れた。
 マノウォーの熱狂的なファンたちは、スコット・コロンバスの演奏を指して「雷鳴の轟き、軍隊の行進のようなドラム」と表現した。そのドラム・プレイが最大限に生かされたのが、第4作『サイン・オブ・ザ・ハンマー』に収録された《Thor (The Powerhead)》の中だった。マノウォーのファンたちは、スコット・コロンバスの迫真の演奏に北欧神話の英雄、雷神トールのミョルニルの一撃を重ねていた。
 スコット・コロンバスは、キャリアの中で重厚な演奏を追求し、ヘヴィメタルという音楽のスタイルに徹底的に拘った。マノウォーのファンたちは、その演奏が永久に聴けるものだと信じていた。しかし、間もなくファンたちは、悲劇的な現実に直面することを強いられたのだった。
 2008年、不動の体制のマノウォーからの突然の決別だった。かつて、ヴァージン・スティールのギタリストとヴォーカリストがそうであったように、よりエピックでシンフォニックなヘヴィメタルを標榜するジョーイ・ディマイオと、ストレートな音楽性への原点回帰を訴えたスコット・コロンバスの揺るがぬ意志は、当然のように、相容れることがなかった。
 この衝撃のニュースは、エピック・メタルのファンたちの間に暗い影を投げ掛け、一部からは、マノウォーの未来を懸念する声も飛び出した。しかし、長年活躍したマノウォーから脱退しても、スコット・コロンバスのドラマーとしての生涯が終わった訳ではなかった。
 スコット・コロンバスも何れは、メガデスのデイヴ・ムステインのように、ヘヴィメタル界への突然の帰還を果たし、鈍った腕前を直に回復させるはずだった。そう信じることで、ファンたちは幾分か慰められた。
 嬉しいニュースも舞い込んだ。2010年5月、『クラシック・ロック』誌に掲載されたインタビュー記事の中では、スコット・コロンバスがインストゥルメンタルのソロ・プロジェクトを推し進めていることが分かった。スコット・コロンバスの復帰は近いかも知れない──
 しかし、大きな期待は、最も悲劇的な形で幕を閉じることとなった。誰もが自らの耳を疑った。スコット・コロンバスの突然の訃報だった。
 2011年4月4日、スコット・コロンバスは、54歳という若さでヴァルハラの門を潜り、ヴァイキングの古い言い伝えにあるように、英雄たちの仲間入りを果たした(このヴァルハラの伝説は、マノウォーの『ゴッズ・オブ・ウォー』にも描かれている)。天国のヴァルハラの英雄の館では、同じく39歳という若さでこの世を去ったヴァイキング・メタルの始祖、バソリーのクォーソンも、共に戦士の饗宴の席に肖っているはずだった。
 スコット・コロンバスは偉大な人物だった。最も尊敬すべきドラマーだった。その日、ファンたちが失ったものはあまりにも大きかった。死因が何であれ、彼のドラムセットが主人の手で打ち鳴らされる日は、永久に訪れなくなったのだった。
 ファンたちは、不世出のドラマーに対して、最後の讃美を捧げる必要があった。《The Crown And The Ring》という楽曲は、この日のために存在していたのかも知れなかった。スコット・コロンバスの魂に永遠の安らぎあれ。

Metal Epic, Jul 2011
Cosman Bradley


*この記事は『叙事詩的なヘヴィメタルの歴史2』に収録されました。

叙事詩的なヘヴィメタルの歴史2


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-Byron Roberts-




Byron1 「耳を澄ませ、壮麗なる帝国の息子たちよ。 ここで我らは血の原野に立つ。我らはこの日死ぬかも知れないが、 我らの伝説は永久に残るだろう」

THE SPLENDOUR OF A THOUSAND SWORDS GLEAMING BENEATH THE BLAZON OF THE HYPERBOREAN EMPIRE (Part II: The Dark Liege Of Chaos Is Unleashed At The Ensorcelled Shrine Of A'zura-Kai)より


バイロン・ロバーツ...
イングランド中部に位置するヨークシャーのシェフィールドに生まれたこの英国人こそ、後に窮極のエピック・ヘヴィメタルを創造することになる、この偉大な物語の主人公である。彼の出身はシェフィールドだが、長年カナダのカンタリオで過ごしたという環境によって、英国人との二重国籍を得たという過去を持つ男だ。この物語は、彼が作り上げた天武のエピック・メタルバンド、BAL-SAGOTH(以下バルサゴス)の栄光の歴史と照合しているものであり...




Episode I:知識の探求

 彼がまだバルサゴスを創造する以前のこと。この頃の彼は、故郷のシェフィールドハラム大学に通い、勉学に励んでいた。彼は大学に通う中で、幻想パルプ誌、SF、コズミックホラー等の神秘的な文学に深く魅了されていた。この時期に彼が培った多くの知識は、後のバルサゴスに強く影響することになる。社会一般的な学問の追求が渦巻くという中、彼が最も好んだのは、過去の偉大な作家達の物語を読むことだった。過去の偉大な作家達とは、幻想怪奇小説の基礎を作り上げた最も優れた小説家達に他ならない。彼は知性のある人物だった。彼が呼んだ小説はとてつもない多岐に渡る。ヒロイックファンタジーの生みの親であるロバート・E・ハワード、20世紀最高の怪奇小説かと称されるH.P.ラヴクラフト、SFとヒロイックファンタジーの原型を創ったエドガー・ライス・バローズ、バルサゴスの伝説的三部作の舞台となる《ハイパーボリア》を誕生させたクラーク・A・スミス、母国の誇るべき幻想小説化デイビッド・ゲメル、バイロンも大ファンであるアメリカン・コミックスの第一人者スタンリー、そのスタンリーと並ぶコミック界の王者ジャック・カービー、スター・ウォーズの生みの親ジョージ・ルーカス、 歴史とSFを組み合わせた壮大なる惑星デューンを描いたフランク・ハーバート、 史上最高のSF作家であるアーサー・C・クラーク……とその例を挙げればきりがない。それがまるで、バルサゴスの物語の多次元性を先駆けて表しているかのように。彼はそれら過去の偉大なる作家達の作品をほぼすべて愛読し、人間の生涯で最も重要な知識を得たのだった。そして作家達から得た膨大な知識は、大学でH.P.ラブクラフトの作品の論文の執筆へと繋がり、結果シェフィールドハラム大学を首席で卒業するという偉業をも成し遂げた。彼の神秘的文学に対する考察は、周囲の人間達が認めるまでに甚大なものとなっていったのだ。しかしこれまで、宇宙的恐怖の畏怖すべき論文で主席を獲得するという異例の事態が多々あっただろうか?彼は大学で、一応の成功を収めたといえる。だがバイロン・ロバーツは、その成功を大して誇るわけでもなく、更なる知識の探求のために奔走した。バイロンは周囲が何と言おうと、結果などには無関心な男だったのだ。時間を得た彼は、長年続けていた中世の戦いの再現に努めた。経歴には、彼が幾つかの中世のクラブに実際に所属していたという記録が残っている。その探求は、半ば伝説的な中世暗黒時代に始まり、十字軍らの13世紀、ルネッサンスが花開く15世紀頃まで及んだ。このようにして、バイロン・ロバーツの初期時代は専ら知識の探求に時間を費やされていったのである。しかしやがてはその探索も終わりを告げる時がやってこようとしていた。彼は自らの得た知識を思い返した。知的な好奇心から始まった神秘の探求は、過去の幻想小説家に出会うきっかけを与え、果ては中世の戦いの再現にまで繋がった。しかしその先はあるのだろうか?既にバイロンは全ての時代、時間軸の物語を読んでいたため、あらゆる物語の創造が可能だった。彼は挑戦的だった。多くを知ったのなら、その全てを網羅すればよいのだ。自らに絶大な影響を与えたソードアンドソーサリー(ヒロイックファンタジー)、SF、古代の伝説及び神話を、崇高なるデス・ブラックメタルの闇の交響曲で表現することはできないだろうか。デス・ブラックメタルは地下世界でカルト的な支持を得ていた荘厳なる音楽形態の一つの完成系だった。彼は、それが自分の究極の理想を現実味のあるものに、より具体性を持って近づけてくれるものだと早急に悟ったのだ。結果彼は一つのアイデアに思い当った。それが、バルサゴスというバンドの起動である。実に1989年のことであった。


Episode II:バルサゴスの勃興

 バイロン・ロバーツ、彼が標榜したのは、簡略化すれば過去の偉大なる幻想怪奇の生み出した半ば伝説的な世界観を、ヘヴィメタルのサウンドで描く事だった。博学な彼は、特にロバート・E・ハワード、H.P.ラヴクラフト、エドガー・ライス・バローズ等の作家達をこよなく愛した。ソードアンドソーサリーを確立したのはハワードだった。バイロンは、人間の根本的な闘争本能を刺激するハワードの作品に強く影響を受けていた。そして、バイロンは構想して間もない自らのプロジェクトを、ハワードの1931年に発表された短編小説「バル=サゴスの神々(The Gods of Bal Sagoth)」から拝借して、BAL-SAGOTH(バルサゴス)と名付けた。この作品が始めに発表されたのは、パルプ幻想雑誌「Weird Tales」だった。彼の尊敬する作家の殆どが、この伝説的なパルプ雑誌の出身であった。ハワードとて例外ではなく、ここでいうバル=サゴスとは、世界最古の王国の名である。この神秘的な名前によって、バイロンのプロジェクトは既に奇妙な高貴を宿していたのだ。しかし、彼のプロジェクトは難航した。なぜなら、彼が追求した「ダークファンタジー、SF、古代の神話及び伝説を描くヘヴィメタルバンド」は、あまりにも壮大で途方もないものだった。過去の作家たちが築き上げた幻想怪奇の世界は驚くほど多岐に渡っており、例えその一つをメタルで表現しきったとしても、そのすべてを描き切るのはほぼ不可能に近かった。バイロンはハワードの英雄叙事詩の世界とヘヴィメタルとの音楽性の間にある共通点を見出してはいたが、何もかもが揃っていなかった。この素晴らしく好戦的な世界観をメタルに持ち込めば、間違いなく今まで誰も挑戦したことのない、唯一無二のエピックメタルが誕生するはずだった。しかしそこで新たな問題が浮上した。歌詞だった。偉大なる過去の作家達を崇拝しているバイロンであったが、そこにオリジナリティを持ち込むのには心底苦労した。彼は今まで得た知識を、全てがリンクする一つの叙事詩的物語として構想した。これは彼の創作だった。多元宇宙(The Multiverse、The Omniverse)……バイロンは自らの断片的世界をそう名付けた。多元宇宙の最初の時代は、アンティディルビア(Antediluvia、ノアの大洪水以前)と呼ばれ、今は失われた煌く都邑、剣と魔法が生きていた頃の時代である。物語の大半はこの時間軸で展開された。それというのも、バイロンが最も追求したのがこのアンティディルビアの時代だったからだ。結果、創作の中で完成していった叙事詩は、過去の作家達の集大成とも呼べるまでに窮極的な広がりを見せ、バイロンは自らの創作をまだプロトタイプの状態だったデス・ブラックメタルに持ち込んだ。紆余曲折あったが、バイロンは着実にバルサゴスの起動に向かって前進していたのだった。しかし、その壮絶な世界観を音楽的な技術で表現しきる適切なミュージシャンは、遂に集まらなかった。一旦、バイロンは自らのプロジェクトを断念するところまで落ち込んだ。だがバルサゴスの神々は、この知識の探索者を見捨ててはいなかったのだ。1993年、彼にとって大きな転機が訪れる。それはイギリスのミュージシャン、ジョニー・モードリング(Jonny Maudling)との出会いだった。彼との出会いは、バイロンの夢を現実に近付けた。音楽一家に"ジョナサン"モードリングとして生まれた彼は、幼少からピアノ等のクラシックの教育を受け、成長するにつれ好んだワーグナー、チャイコフスキー、ホルスト等の本格的な作曲家達の影響を顕著に残す、天武の音楽家だった。彼の交響的要素にバイロンの詞世界が加われば、遂にバルサゴスは完成するのだ。更に、ジョニーには兄弟がいた。ギタリストのクリス・モードリングである。ジョニー同様、彼も恐るべき技量を秘めた未発掘のギタリストであった。そして幸運なバイロンは、彼諸共バンドに引き込むのだった。バルサゴスを起動させるきっかけを作ったこの素晴らしい兄弟は、モードリング兄弟として以後親しまれていく。こうしてバンドの基盤を得たバイロンことバルサゴスは、遂に本格起動を開始する。手始めに自主制作のデモを同年に発表。サウンドはまだ試作段階の純粋なブラックだったが、既に神秘的な雰囲気を醸していた。そして1995年、バイロンは長年夢見た1stアルバムを遂にアンダーグラウンドのレーベル、カコフォノスよりリリースしたのだった。記念すべき1stには「A Black Moon Broods Over Lemuria」と題されたタイトルが冠された。そう、ここより、バルサゴスの栄光の時代が幕あけるのである……


Episode III:バイロン卿の遺産

 最大の勝利者である《時》は過ぎ去り、バルサゴスは現在までに六枚の遺産を残した。ここにある彼らの記念碑的なアルバムの軌跡は、この私、コスマン・ブラッドリーが苦労の末に記したものである。バルサゴスの栄光を永遠に記録するために;

Episode Ⅳ(1st Album):『レムリアの空に浮かぶ《黒き月》』(A Black Moon Broods Over Lemuria,1995)
Episode Ⅴ(2nd Album):『ウルティマ=テューレの氷に覆われし玉座の頭上にて燃え盛る《星の炎》』(Starfire Burning Upon The Ice-Veiled Throne Of Ultima Thule,1996)
Episode Ⅵ(3rd Album):『戦いの魔法』(Battle Magic,1998)
Episode Ⅶ(4th Album):『宇宙の力』(The Power Cosmic,1999)
Episode Ⅷ(5th Album):『アトランティスの勃興』(Atlantis Ascendant,2001)
Episode Ⅸ(6th Album):『冥界歴程』(The Chthonic Chronicles,2006)


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