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「BAL-SAGOTH(バルサゴス) 」カテゴリ記事一覧


The Review of Bal-Sagoth

The Review of Bal-Sagoth

from 2012.03.08...

我々が尊敬してやまないイギリスのウォーメタルの怪物、バルサゴス。
ここではバルサゴスに関する記事をまとめたので、参考にしていただければ幸いである。


■アルバム・レビュー

バルサゴスの全アルバムのレビュー。

1st Album:『レムリアの空に浮かぶ《黒き月》』(A Black Moon Broods Over Lemuria,1995)
2nd Album:『ウルティマ=テューレの氷に覆われし玉座の頭上にて燃え盛る《星の炎》』(Starfire Burning Upon The Ice-Veiled Throne Of Ultima Thule,1996)
3rd Album:『戦いの魔法』(Battle Magic,1998)
4th Album:『宇宙の力』(The Power Cosmic,1999)
5th Album:『アトランティスの勃興』(Atlantis Ascendant,2001)
6th Album:『冥界歴程』(The Chthonic Chronicles,2006)


■コラム

バルサゴスに関係する記事を摘出。

メタル・レジェンズ:「詩人」バイロン・ロバーツ
イントロダクション~第一回 「バルサゴスについて語る」
コラム・ザ・コラム:第9号「宗教が終りを迎える時」
用語集1 「ロバート・E・ハワード」
用語集2 「H・P・ラヴクラフト」
用語集3 「エドガー・ライス・バローズ」
2010年5月5日
画廊:バイロン卿
バルサゴス検定【上級編】
バルサゴスのレビュー完全版、完成
バルサゴス、過去作の再販決定
Bal-Sagoth:4th「The Power Cosmic」、5th「Atlantis Ascendant」、6th「The Chthonic Chronicles」再販(2011~2012)
バルサゴスのレビューの移動について



Review by Cosman Bradley
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BAL-SAGOTH 「The Chthonic Chronicles」

The Chthonic Chronicles



Country: United Kingdom
Type: Full-length
Release: 2006
Reviews: 100%
Genre: Symphonic/Epic Black Metal




ロバート・E・ハワード、H・P・ラヴクラフト等の流れを組む天才的な詩人バイロン・ロバーツ(vo)率いる、エピック/バーバリック/シンフォニック/ヒロイック/ウォー系ヘビィメタルの頂点を極めたバルサゴスの6枚目となる現在での最終リリースアルバム。2006年発表作である。前作『Atlantis Ascendant』(2001)の発表から約5年ぶりとなる6枚目のアルバム発表にあたり、これまでドラムを務めていたデイヴ・マッキントッシュ(ds)がドラゴンフォースに加入するために脱退。後任に新しくダン・マリンズ(ds)を迎え発表に漕ぎつけた。強烈な存在感を示すアートワークは、前作と同じくマーティン・ハンフォードが担当。前作まで国内盤が発売されていたにも関わらず、今回国内発売が見送られたのは、セールスによる不振か、歌詞が長すぎるために翻訳家が拒否したためかと思われる(笑)。冗談はここまでにしよう。

本作を私は、バルサゴスのアルバム中の最高傑作、いや全エピックメタル・アルバムの最高地点に位置付ける(もちろん私の独断と偏見で、ある)。エピック・メタルがヘヴィメタルのシーンに生まれてこの方、まさかこのような、超越的な畏怖すべき作品が生まれることは、全く持って驚異的としか表現のしようのない。私は鳥肌が立つ思いだ。事実、これはもはやエピックメタルというジャンルを超越した芸術作品なのではなかろうか。まず、アルバムの概要に入る前に、これまでの彼らの旅を振り返っておいたほうがいいだろう。そうでなければ、我々は全く持って無知のままに、彼らの世界観を理解できないまま終わってしまう(しかし、世界観を全く知らないにしても、音像のみで十分楽しめてしまうのが彼らの凄いところである)。それは残念なことだが、彼らの肥大しすぎた世界観を完全に理解することはほぼ不可能に近い。よって要点だけを抽出しておこう。

バルサゴスの物語...
最初に、バルサゴスの歴史が幕開けた第一作目『A Black Moon Broods Over Lemuria』(1995)から、彼らは太古の時代の地球に目を向けていた。この時代は、人類が始めて生命の息吹を上げた時代であり、バルサゴスの壮絶な叙事詩の物語のすべてが始まった時代であった。創始者のバイロン・ロバーツが夢見たように、太古の物語は、6thに当たるすべての世界に共通することとなった。次に、第二作目『Starfire Burning Upon The Ice-Veiled Throne Of Ultima Thule』(1996)における古代の世界が舞台となった。古代は、野蛮から未だ醒めぬ人類の先人達が作り上げた偉大な文明と戦いが支配する時代であり、バルサゴスの物語の重厚な基盤を固めた。太古から続くハイパーボリア、アトランティス、レムリア、ムー等の煌く文明国家を舞台にした物語であった。これらの太古の失われた諸大陸がバルサゴスに与えた影響は計り知れないであろう。そして、やがて、物語は第三作目『Battle Magic』(1998)にて中世世界に移る。幻想と秩序が支配する輝かしい魔法のような時代であり、バルサゴスの物語ならずサウンドにも多大な影響を及ぼした。それは、大仰かつファンタジックな交響曲の要素であった。続いて彼らは、第四作目『The Power Cosmic』(1999)で未来──またの名を宇宙──へと舞台を移した。技術の驚異的な革新により宇宙へと進出した人類が未知の生命体と出会い共存、戦争を繰り返す最終的な時代であり、バルサゴスの物語に途方もないスケールを齎した時代であった。これによって彼らの世界観には限りがないことを我々は知ったのだ。彼らが最後に描くことになったのは、第五作目『Atlantis Ascendant』(2001)に描かれた現代の時代であった。与えられた多くの時間を探索に費やす最も変哲もない時代であり、バルサゴスの物語にすべてを見通す余裕を与えた時代であった。かくして、彼らの長き探索は続いてきたのであった。そして、*Hatheg-Kla(ハテグ=クラ)として知られる神秘的な山脈から始まって、物語られた──解き放たれた──六つの鍵が、この第六作目『The Chthonic Chronicles』(2006)によってHatheg-Klaに帰還する時が遂に訪れたのである...

*H・P・ラヴクラフトの『蕃神』に記される禁断の霊峰。太古の時代には、大地の神々が住処としていたという。また、古代ハイパーボリアの魔術師による『エイボンの書』には、《スランを東に望むハテグ=クラ》と表される等、バルサゴスの叙事詩にとって極めて重要な位置を担う山脈である。

冒頭から長々となってしまったが、アルバム本編の内容について語ろう。この6枚目のアルバムは、これまで発表されてきた5枚のアルバムの中でエピック・メタルを独自に進化・発展させてきた、強いてはバルサゴスという天武のヘヴィメタルバンドの集大成的作品である。読んで字の如く、他の一切の追従を許さない窮極的に完全な形態に達したエピックメタルアルバムである。進化した面は様々である。これまでアルバムの要となっていたシンフォニック面では、キーボードを多用していたのであるが、今作では、生の交響楽団を起用することに成功。「ハイパーボリア交響楽団」と題された壮大な交響楽団の素晴らしい仕事によって、バルサゴス・サウンドはこれまでとは比べ物にならないほど本格的な重厚感を共有することとなった。よって傑作とされた過去の5枚のアルバムの中で唯一欠点とされた音質のチープさはもはや完全に消え去っており、臨場感、雰囲気、重厚感は限りなく完璧の部類にまで到達した。それを体現するかの如く、異才を放ってきたバイロン卿のナレーションにも空間的な処理が施され、まるで音の中からズルズルと這い出るような不気味さと生々しさを聴衆に感じさせることが可能となったのである。

完璧である本作を語る上で重要なキーワードとなってくるのが、タイトルの「The Chthonic Chronicles(冥界歴程)」である。恐るべき魔道書として幾多の時代に影響を及ぼすこの品は、ある種の神秘世界で有名な『ネクロノミコン』や『ナコト写本』、はたまた『エイボンの書』を想起させる。この書が壮絶な基盤となり、本作各曲のところどころに登場していくのである。いわゆるアルバムのコンセプトは、本格的な神秘世界であり、突き詰めるならばコズミック・ホラーの世界だといえる。アルバムを聴いてみても実にオカルティックで背筋がゾクゾクするような緊張感のあるものである。かつてバイロン卿は、大学でH・P・ラブクラフトについての論文を書き上げた(これについては1stのレビューで触れる)ほどの、熱烈なラブクラフティアン──ラヴクラフトに心酔している者達を時にこう呼ぶのである──だった。これまでの作品にも見られた、クトゥルー神話に通じる秘境的な宇宙的恐怖がこのアルバムには充満している。

完全無比なプロダクション・音質と相俟って、遂にバイロン卿や片腕ジョニー・モードリング(key)が思い描いた世界を表現することが可能となったのである。その結果として誕生したのがまぎれもない本作であり、非常にカルト的な、世にも恐ろしいエピックメタル作品が産み落とされたのだ。同時に、これまでの彼らの栄光の旅を網羅する、集大成的な作品ともなっていった訳である。物語には、彼らが最も追求したといえる太古の世界が主に描かれているのであるが、驚くべきは4thの内容でも触れられていた宇宙の真理のように、まさに地球の起源についての真実、人類学の本質、この惑星の未来についての極めて真理に近い部分まで網羅しているということだ。特に、すべての始まりと終わりを仄めかす#12の歌詞の内容については不気味なものさえ感じる。アルバムの締めくくりも不穏なものだ。しかし、その謎や神秘性がバルサゴスたる由縁のように感じてしまうのも、また事実である。

どちらにしろ本作品がバルサゴス以外の何物でもないことは扱く明白であり、バルサゴスは単にメタルを超越した、一つのジャンルを作り上げたに他ならない。本作の唯一の問題点を挙げるとすれば、あまりにも完璧な窮極のエピックメタルアルバムであるために、聴くのが勿体ないと感じてしまうことだ。よって私などは、このアルバムを封印することとなり、結果的に何か欠点のある別のメタルアルバムの視聴に走ってしまうのである。人間は完璧なものを遠ざけて、欠陥品の中にも魅力のある作品を求めてしまうというのも、悲しい性である。。最もそれを体現しているのが私なのだが。このようなことにならないように、是非バルサゴスファンは、本作を過剰摂取してもらいたいものだ(笑)。

バイロン卿は、インタビューで今後のアルバムについては未定であると語っている。最後の曲でHatheg-Klaに帰還してしまったため、多くのファンは彼らがメタル界から去るのかといぶかしんだ。バイロン卿はこのように語った「我らバルサゴスの物語の宝物庫には資料が十分にある。我らはそれらをレコーディングするかもしれない、しかし、以前のバルサゴスの栄光たる伝説が酷く汚されるか、もしくはそうなるのであれば、その前に我らは自らの仕事をこれまでに切り上げるかもしれないだろう」最近では、頻繁にライブ活動をしているようで、是非このまま新しいアルバムにこぎつけてもらえればと思っている。2009年のインタビューでは、2012年のマヤの歴史的な日付に対する7枚目のアルバムを考慮しているとも明かしている。バイロン卿の話によると、その時、星辰は揃うというが…。



1. 冥皇陛下に捧ぐ第六の賛辞
The Sixth Adulation Of His Chthonic Majesty
太古の魔道書を解読したという男が宇宙の邪悪な存在について仄めかすという、不気味なイントロダクション。聴くことによって目の前に太古の世界が広がり、脅威を感じることができる。進化したバイロン卿のナレーションの迫力が早くも炸裂している曲である。

2. 外界の夜を超えた召喚
Invocations Beyond The Outer-World Night
5thの"In Search Of The Lost Cities Of Antarctica"の完結編。古代地図を手に入れた探検家が竜巻丸(探検家の乗船する船の名である。バイロン卿は、以前にもヨアヒム・ブロックの刀にマサユキ銘を与えるなど、好んで日本名を用いている)で北極に行き地底への入り口を発見する。そしてそこには、数万年の昔に滅んだはずの暗黒世界と《初源の者達》の遺産が眠っていたのである。ここでも雪崩れるようなリフとドラムの猛攻撃は健在。一度の視聴のみで、バルサゴスのサウンドが驚異的な進化を遂げていることを判断するのは容易なことだろう。中間部分には、バイロン卿が生み出した、外界の神性の名を不気味に朗読するパートも登場する。要訳すると、ズルテーフ、ズクゥル、カ=ク=ラ、ゾータン=クゥ、クルオック、グゥル=コオル、アゾール・ヴォル=トースという名状しがたき神性の名が浮かび上がる。

3. 魔神の化身へ捧ぐ百三十の奉納
Six Score And Ten Oblations To A Malefic Avatar
この曲では、前作に登場したカレブ・ブラックスローン三世教授の友人、イグナティウス・ストーン博士の終極的な物語が語られる。彼は偶然にも、1666年のロンドンの大火によって失われたはずの《冥界歴程》を発見する。しかし、その後、彼は謎の秘密結社《ヒルデブランド》につけ狙われる。そして鍵を隠そうそするのだが。物語は非常に緊迫したものであるが、曲はそれを遥かに凌駕するおぞましいものとなっているということを、我々は確認した方がいい。秘教に対する、究極の探索行である。冒頭の謎めく語り、攻撃的で鋭角的なギターリフ、幽玄なオーケストレーションが神秘性を徐々に醸し出していく。中間部では、まるで世界が変わったかの様な驚異的な展開を見せ、過去最も神秘的ともいえるギターメロディが流れる。このパートは、宇宙的な真理を醸し出しているか、または異次元ともとれる超越的な部分であり、舌筆に尽くしがたい興奮を齎す。聴者は、早3曲目にしてサーガの終着点を目撃することになろう。

4. 解き放たれる黒曜石冠
The Obsidian Crown Unbound (Episode: IX)
《黒曜石王冠》サガの続編にあたる。《帝国》は、《黒曜石王冠》の絶大な魔力でヴィルゴシア難攻不落の城塞都市グル=コトースを遂に突破する。そして皇帝クールドは、《黒き湖》のオーガ魔術師と剣聖キアマンクに古代の伝説的な《影の王》を蘇らせる解放の言葉を唱えるよう命じる。非常に荘厳な曲であり、中間部のいきなり鎮まりかえるパートのナレーションはおぞましいことこの上ない。重厚なリフが行進曲調に刻まれる序盤のパートは非常に厳かだ。

5. 滅亡した深海平原の諸王国
The Fallen Kingdoms Of The Abyssal Plain
地球最初の生命を創ったとされる《メラ》。その落とし子は《初源のもの》と呼ばれ、大いに繁栄する。その《メラ》と《初源のもの》に関した神話を元に、忠実に作られたインストゥルメンタルである。人類学的、神秘学的なエフェクトがこの世界の想像もしない太古の時代の光景を我々に見詰め直させる。。潜在的な感覚を呼び覚ます神秘的なシンフォニーである。しかし悲しいかな、《初源のもの》が設計した最後の海底都市は、地上の天変地異によって徹底的に破滅したのである。いかな偉大な文明といえども、最期には滅ばなくてはならない。バルサゴスは、その瞬間を我々に伝えてくれたのだ。

6. クトゥルーの塔に囚われて
Shackled To The Trilithon Of Kutulu
やがて大いなるクトゥルーは、地上にルルイエの館より再び蘇り、地上人らを支配するだろう、というラヴクラフトより発展した「クトゥルー神話」にインスパイアされた曲。迫りくる脅威を見事エピック・リフで表現している。中でもラスト付近の怒涛の展開力は、人間の聴覚では捉えきれない。というのは嘘だが、それほど切迫しているということを分かってほしい。

7. 皇帝の鉄槌
The Hammer Of The Emperor
太古の世界を忠実に再現した楽曲。私にとっては、歴史的名曲といえる曲である。冒頭の歴史を想起させる重厚なリフ、あまりにも器用なオーケストレーションは凡百のバンドが醸し出せるものではなく、最後の古めかしく、古代世界の栄光を綴ったかのようなギターメロディの流れには胸を打つものがある。

8. 解き放たれるカルナックの旧き監視者
Unfettering The Hoary Sentinels Of Karnak
5thの"The Dreamer in the Catacombs of Ur"の前編。ウルの地下墓地に眠る《夢見るもの》にイグナティウス・ストーン博士が遭遇するという物語である。これも背筋がゾクゾクするような、典型的なバルサゴスの曲である。

9. ビザンティウムのキュクロープス式の門を襲撃せし事
To Storm The Cyclopean Gates Of Byzantium
神曲である。バルサゴスが生み出した曲の中で、究極ともいえる超越的な次元に達し得た曲だといえる。私は全ての曲の中でこの曲に対して最も好意的である。歌詞──正確には、ブックレットに記述されているもの──では、皇帝セプティミウス・セウェルスを操りビザンティウムを壊滅させた魔道師アングサール──彼は、ハイパーボリアで登場した「混沌の闇の君主アングサール卿」と同一人物である──について語られているが、楽曲全体の概要は違っているように感じられる。全ての集大成的なインストゥルメンタル曲なのである。これまで、バルサゴスが旅してきた過去・未来・現代すべての世界の光景が鮮烈に蘇り、それは人間の壮大なものに対する根本的な感動を揺さぶり涙腺を刺激する。もしバルサゴス・サーガを締めくくるとしたら、この曲が最も相応しいだろう。

10. 太古の神秘
Arcana Antediluvia
《怪奇なる海》を旅する謎の「黒き船乗り」についての物語。彼の存在は謎に包まれている。勇壮なリフに絡むピアノが非常に神秘的だ。

11. シドニアの真紅の円蓋の下で
Beneath The Crimson Vaults Of Cydonia
火星シドニアにある人面岩についての曲。宗教観も含まれる。火星の人面岩の下には"暗黒銀河の妖蛆"が眠っており、かのものが目覚め地球に到来すれば、三大宗教──キリスト、ユダヤ、イスラム教──は終焉を迎えると記されている。クライマックスあたりでのリフの劇的な加速と雪崩れ込みはあまりにも過激かつスリリング。最後にこれほどの雪崩込みをお見舞いされると、こちらもだんだんと感覚がマヒしてくる。もちろん良い意味でだ。

12. ハテグ‐クラへの帰還
Return To Hatheg-Kla
《大いなる宇宙の眼》を見、真実を悟った者が、この世界の始まりと終わりを知るという、バルサゴス・サーガを締めくくるかのような歌詞である一方、不穏な終わり方を見せる不気味なエピローグである。宇宙的な電子音、神秘的な女性の裏声が虚空に鳴り響く。もしかしたら本当に神秘的なものとは、人間の既存概念では捉えられないのかもしれない。思い返せばバイロン卿の物語は、殆どが断片的で、知識欲の探求に満ちていた。私は、バイロンの"断片的"という形式に関しては、物語が計り知れないほど遥か太古か未来に渡っている故に詳細に記述することができないため、という自論を出すことが出来る。しかし、もう一方の"知識の探求"においては、もう人間の永久的なテーマとして捉える事が最もな解決策であると思っている。この人類の根本的ともいえる深いテーマがあるからこそ、バルサゴスの物語やサウンドは、常に神秘的で、知的好奇心を刺激してくれるのだ。それは決して薄っぺらいことではないし、難しいことでもない。まずは何かを探求する、ということが人間には重要なのだろう。では最後に、死語となっているあの言葉で、バルサゴスの全レビューを締めくくるとしよう。私の駄文をここまで読んでくれた方々には、誠に感謝の意を表したい所存である。


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BAL-SAGOTH 「Atlantis Ascendant」

Atlantis Ascendant



Country: United Kingdom
Type: Full-length
Release: 2001
Reviews: 89%
Genre: Symphonic/Epic Black Metal



本作は、"Kings Of Barbarian Metal"ことバルサゴスの2001年発表の5thアルバムである。相変わらずコンセプトに合った、SF・ファンタジィを想起させる素晴らしいジャケットが購入意欲を駆り立てる 。このアルバムのアートワークを描いているのは、イギリスのヘレフォード州に拠点を置く幻想作家Martin Hanford(マーティン・ハンフォード)である。ダイナミックな画風がバルサゴスにはマッチしているのだろう…。アルバム本編の制作メンバーは、前作と同じ5人による。最も、バイロン卿とジョニー兄弟さえいれば、特異なそのバルサゴス・サウンドが揺らぐことはないのであるが。

今作は、バルサゴスにとって初めての国内盤がサウンドホリックからリリースされた、日本人にとって記念すべき一作となった。長らく謎に包まれていた彼らの壮大な詩世界も、誠にありがたいことに、全訳されている(もちろんこの5thのみであるが)。私は、これを機にその他の素晴らしいアルバム群も国内発売されることを望んでいたのであるが、その希望はあっけなく崩れ去ったようだ。残念ながら2011年現在、バルサゴスの国内盤は『Atlantis Ascendant』のみとなっている。しかし、この国内盤には、初期1993年のデモ・ボーナストラックが2曲追加され、はたまた歌詞も訳されているのだから、絶対に日本人にはお勧めできる。

まず、今回も徹底された"バルサゴスのアルバム"だといえるだろう。独創的であり、決して他の追随を許さぬ大仰な作品となっている。そして、私たちのような熱心なファンを決して裏切ることなく、また、同時に傑出したエピック・ヘヴィメタルの名盤であるといえる。彼らの場合、すべてのアルバムがかのマノウォーと同じく名盤・傑作に値するが、今作も実に満足いく仕上がりとなった。雪崩込むようなドラムス、エピカルなメロディ、荘厳なナレーション、度肝を抜くシンフォニー、劇的極まりない展開が惜しみなくバルサゴスという神秘の神殿に奉納されているのである。特に、#1~#4までのドラマティックかつダイナミックな展開には、バルサゴスの今挙げた長所が存分に発揮されているといえよう。#3などは、私の大変お気に入りである。一方アルバムの後半は、これまで以上にヘヴィなギターを前面に押し出し、古代遺跡──今作の舞台となっている地上の秘境──を彷彿とされる重厚なサウンドを構築するという試みもみられる。その効果が最大限に引き出されたのが#7~#8であり、聴者は想像を絶する太古の秘境へと旅をすることになる。つまりは、バルサゴスはキーボードを多用しなくても、視覚を刺激する強烈な音楽を創造できるということだ。

広大な宇宙を叙事詩的に描いた前作『The Power Cosmic』(1999)より、今作は物語の舞台を現代──主に19世紀の地球である──に移し、今回も壮大なコンセプト軸は継続された。バルサゴスが平坦な物語を描く必要性などは永久にないのだ。しかし、物語の舞台が正確に現代とはいいづらい。なぜなら、彼らの物語は、過去の偉大な作家であるH・P・ラブクラフト、ロバート・E・ハワード、C・A・スミス──ここに挙げた三人の作家は、伝説的なアメリカの怪奇幻想パルプ雑誌『ウィアード・テイルズ(1923~1954)』に幾多の名作を発表したことから"ウィアード・テイルズの三大作家"と呼ばれる──等の生み出した、一連の謎めく作品群に見られる"太古の脅威を現代の人間が発見する"という形式をとっているからだ。または、冒険家グラハム・ハンコックとでも言えば分かりやすいだろうか。今作では、主にカレブ・ブラックスローン三世教授という19世紀イギリス人の冒険と功績が語られている。この人物は、3rd『Battle Magic』(1998)の#7「When Rides The Scion Of The Storms」にも登場しており、恐らくは生まれ変わりか何かだろう。彼の残した日記の内容が本作の歌詞で触れられているのである。その日誌には、古代神話、考古学、人類学を含む、カレブ・ブラックスローン三世教授の生涯を懸けた探求が綴られており、こういった分野に好奇心を抱く向きならば、非常に魅力的な価値を見い出せる物語である。



1. イプシロン序文
The Epsilon Exordium
カレブ・ブラックスローン三世教授は、人類の起源の本質と失われた太古の文明の伝承、そして、その証拠を探し出すことに人生を奉げた。本編の楽曲の物語の殆どは、彼が危険の中書き続けた日誌の記録によるものである。本曲は、何かが始まるとでもいうような行進曲調のインストゥルメンタルであり、古代の原始的なメロディが胸を打つ、視覚を刺激する曲である。

2. アトランティスの勃興
Atlantis Ascendant
カレブ・ブラックスローン三世教授が発見した碑文(粘土板)より、太古のアトランティス大陸の起源を紐解くという、このアルバムを代表すべき名曲。碑文によれば、遥か大昔に、第三の巨大な地殻の激変が大陸の表面を新たに作り出す以前、太古の世界において、一つの国家が他のすべての国家を圧倒したと刻まれている...それこそがアトランティスであったのだ!楽曲は、勇壮な原始の警笛が至る所で鳴り響き、まさに栄光のアトランティスが蘇ったかのよう。また、ブラックスローン教授の失われた文明に対する探索のロマンを、後半の秘境探索の如き壮絶な展開に垣間見ることができる。

3. ドラコニスの大地
Draconis Albionensis
時代とは変化するもの。故に神秘の時代も終わりを告げようとしていた。伝説的な時代の終わりごろ、偉大なるアルビオンのドラゴン卿らの最後の戦いが記されている。彼らは、畏怖すべき異教徒らからアルビオンの全王国を守ったのだ。ウィルルド・シニンガ!曲としても、このアルバム中で出色の出来である。宇宙と太古の幻想的な世界が見事に混ざり合い、非常に独創的かつヒロイックな雰囲気を持つ。ギターメロディに関しては、宇宙的であり、実にロマンティックだ。なによりキーボードの重厚なメロディからギターソロへの展開が劇的。後半のいきなり鎮まるパートは必聴。私は、ここまで"圧倒的"という表現が相応しいと感じた曲にこれまで出会ったことはなかった。

4. 古代宇宙形状論学者の星の製図
Star-Maps Of The Ancient Cosmographers
タイトル「古代宇宙の星図」──正確には、宇宙形状論学者の地図のことを指している──だけあり、オペラティックな音楽性がある。カレブ・ブラックスローン教授は、夢を見、遥か太古に全宇宙の惑星の位置を示した星図を発見した魔術師のことを知る。ここでのギターメロディも素晴らしく、はっきりいってクサいのだが、大仰極まりなくて良い。神秘的な時代(世界)の光景と、永久に失われた儚いロマンを感じる。

5. アンコールワットの亡霊
The Ghosts Of Angkor Wat
怪しげなイントロ。

6. 極北の帝国の紋章の下に煌く千本の剣の輝き(エピソード:Ⅲ)
The Splendour Of A Thousand Swords Gleaming Beneath The Blazon Of The Hyperborean Empire (Part: III)
伝説的な《極北の帝国の紋章の下に煌く千本の剣の輝き》に幕を下ろす、壮絶な最終章であり、バルサゴスファンの間での聖典となっている楽曲。少々物語をまとめて拝借しよう。 "壮麗なるハイパーボリアを見よ。北の煌く宝石。我らがハイパーボリアの王は完全復活した混沌の闇の君主を前にして絶体絶命の危機に陥りながらも、その勇敢な力を失うことはなかった。全宇宙の秩序を守り、究極の混沌を打ち破るため、彼は最後の希望である《影の剣》に封じ込められていた不死身の神の不滅のエキスとひとつになることを選んだ。偉大なる王よ!それは人間としての死を犠牲とし、永久に人間の世界を後にすることに他ならない。そして王は、勇敢に戦ったハイパーボリアの戦士たちに最後の戦いに挑むべく、最後の命令を下すのだった……ハイパーボリアの王と戦士たちに、永遠の栄光あれ!" 残念ながら、王とアングサールの戦いの結末は語られずに物語は幕を閉じる。主人公は、結果的にアングサールを打ち破ったのだろうか。本曲はあまりにも攻撃的であり、正直何が起こっているのか分からなくなる。とんでもない情報量が脳内に送り込まれるのだ。しかし、本当にこの楽曲は大傑作に値する。いつか小説や映画化することを熱望したいが、問題は予算である。作品が未完のまま終了するというところも、人間の心理に最も印象に残る手法であり、見事という他ない。バイロン卿は、これらをすべて計算していたのだろうか。

7. ウルの地下墓地に眠る《夢見るもの》
The Dreamer In The Catacombs Of Ur
考古学者イグナティウス・ストーン博士がウルの地下で見出した《夢見るもの》について語られている。ギターが前面に押し出された過激なウォーメタルであり、古代都市のような重厚な雰囲気も漂う。神秘的で謎めく曲だ。ちなみに尺八を取り入れた、歴史的な曲。もちろん見事にはまっている。

8. 南極大陸の失われた都市を求めて
In Search Of The Lost Cities Of Antarctica
南極大陸の失われた都市を求める一人の勇気ある探検家の物語。彼の探し求めた南極大陸の都市──かつてそこには、天に向かってその輝きを誇った、人類誕生以前の原初の大都市が存在していたのである。メタリックなギターの作り上げるリフの分厚い壁が、ヒロイックな高揚感とともに襲いかかる、激烈な曲。特に、クライマックスであるリフの雪崩れ込みは壮絶ともいえる。

9. 影の年代記
The Chronicle Of Shadows
3rdを想起させる勇壮なエピックスピードメタル。物語の各所に登場する《影の年代記》の断片を語る楽曲である。非常に歯切れの良い勇壮なメロディが耳に残ってやまない。ファンファーレの効果も絶大だ。

10. 漆黒のピラミッドへ渡る六つの鍵
Six Keys To The Onyx Pyramid
幻想的にアルバムに幕を下ろすエピローグ。ここでカレブ・ブラックスローン教授の日記は途切れている…。不穏な終わり方が謎めいていていかにも彼ららしい。

11. アトランティスの尖塔の夢
Dreaming Of The Atlantean Spires:Alpha
ボーナストラック。1stの#2と同名の曲。これは初期のころのブラック色が強かった彼らが認められる、貴重な曲だろう。曲としてはまさに邪悪で、それらしいといえる。

12. 輝ける火宝石
By The Blaze Of The Fire Jewels:Zero
上と同じくボーナストラック。特に突出したものはない。


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BAL-SAGOTH  「The Power Cosmic」

The Power Cosmic



Country: United Kingdom
Type: Full-length
Release: 1999
Reviews: 95%
Genre: Symphonic/Epic Black Metal



本作は、"KINGS OF BARBARIAN METAL"ことイギリスのバルサゴスの4thアルバムにあたる。正式な発表は1999年。前作、前々作をバイロン・ロバーツ(vo)、 ジョニー・モードリング(key)、クリス・モードリング(g)のたった3人で制作してきた彼らであるが、今作よりベースにマーク・グリーンウェル(b)を、ドラムにデイヴ・マッキントッシュ(ds)を加入させた。そのことにより以前にも増してバンドらしくなり、サウンドにも切れが出てきた。メンバー増加は、バルサゴスにとって、大いに正解だったようだ。

90年代後半は、バルサゴスの黄金時代といえよう。驚異のエピカル・シンフォニックブラックを提示した傑作2nd『Starfire Burning Upon The Ice-Veiled Throne Of Ultima Thule』(1996)、爆発的なまでに大仰なシンフォニーでファンの度肝を抜いた名作3rd『Battle Magic』(1998)、そして、本作にあたる4th『The Power Cosmic』に至るまで、アルバム内容の完成度を劇的なまでに向上させてきた。バルサゴスが他のあらゆるバンドと完全に差別化される要素には、主に捨て曲がないことがよく挙げられる(他にも大仰さ、テクニック、スケール感とキリがない)。本作も全編に渡り楽曲のクオリティが極めて高いのは、あえて記すまでもないことだ。

いうまでもないが3rdアルバムに当たる前作『Battle Magic』は、シンフォニック・エピックまたは、ヒロイック・ファンタジー系ヘビィメタルの確固たる名盤だった。サウンドを大胆にも中世系の煌びやかなスタイルに変化させ、大仰なシンフォニーの中にも自らが確立した「BARBARIAN METAL」に恥じぬ攻撃性と過激性を加味させることに成功した。サウンドと同様、詞世界的にも発展しており、膨大な物語の中には、中世を舞台にした叙事詩すらあった。 実に、バルサゴスの無限の可能性を顕著に示したアルバムだったといえるだろう。

そして、今回、コンセプトの自転軸は宇宙に移り、まさに広大なアルバム内容となった。今まで古代から中世へと物語を進化させてきた彼らであるが、ここにきて宇宙を舞台に選択し、その可能性を更に押し広げた。印象的なアルバム・ジャケットの写真には、ライトセーバー(なんと両刃である!)を持ったバイロン卿が載っており、まずファンはにやりとさせられるだろう。そんなユニークなジャケットであるが、メインのアートワークは意味深なものであり、インタビューでバイロン卿は、中心に描かれたのが"半神ズゥラ"であり、後ろにうっすらと映っているのが"プライム・ヴォイジャー"だと語っている。どうやらこのアルバムでは、未来世界で起こる出来事を描いているらしく、非常に好奇心をそそられる内容だ。テーマを宇宙にしたこともあり、ここでようやく広大なバルサゴス・サーガの全貌が見えてきたという印象も受ける。彼らの物語は、太古(Antediluvia)、古代(ancient)、中世、現代、未来、さらには異次元にまで及んでいることは有名だが、どちらにしろ途方もなく壮大な世界観だ。

ではここから音楽面について記述していこう。様々な進化を遂げてきたバルサゴス・サウンドであるが、既に円熟の域に到達している。大仰過ぎるキーボードは、やはり今作でも圧倒的なインパクトを放つ。キーボードの生むファンタジックなメロディがアルバムの要となっているのである。当然の如く、これは、1st以外のすべてのアルバムに共通していることだ。また、前作でもやり過ぎなまでにフューチャーされたギターメロディが今作でも健在であり、過剰にヒロイックなメロディを紡いでいる。今作では宇宙が舞台ということもあり、オペラティックな要素も加味され、スターウォーズのサウンドトラックのようなスペクタクルなメロディが頻出する。結果、歌詞世界を凌駕するほどスケールのあるサウンドとなったのである。そして、毎回驚くのが圧倒的な展開力であり、一大サーガと呼ぶに相応しい、劇的極まりない楽曲群で構成されている。映画のスクリーンのように展開するメロディの応酬は、筆舌に尽くしがたいほど素晴らしいものだ。これほどの興奮と驚異を音楽から感じ取ることが出来るのも、人生で希少な体験である…



1. 星々の目覚め
The Awakening Of The Stars
未来世界にて、火星で謎の二十面体が発掘され、《至天秘録》のバラバラとなった欠片のありかが明かされる、という内容を含む、あまりにも期待感を煽る劇的なシンフォニックなインストゥルメンタルである。エドガー・ライス・バロウズの「火星シリーズ」を思わせるような、勇壮かつ幻想的なメロディが、これから始まる壮大なスペース・サーガを物語っている。

2. "雨の海"に眠る旅人達
The Voyagers Beneath The Mare Imbrium
何千年もの時を経て蘇った合成魔人ズゥラと月面に封印された7体の宇宙的存在との間に勃発する新たな抗争を予感させる宇宙的な曲。物語の幕開けを思わせる劇的かつメロディックな冒頭のパートが素晴らしい。また、ギターの齎す宇宙的な哀愁が胸を打つ。後半の、宇宙へ上昇するかのようなヒロイックなパートの高揚感と盛り上がりも劇的極まりない。

3. 至天秘録
The Empyreal Lexicon
《至天秘録》を探索するズゥラ。あまりにも大仰すぎると思わざるを得ない名曲である。オープニングの宇宙のロマンを思わせる鳥肌もののギターソロから、高速のキーボードパートへの展開は、特に特筆すべきだろう。劇的なまでにヒロイックであり、ロマンティックな曲だ。メロディの展開は絶品であり、オープニング、中間、ラストと完璧な流れを構築する。中でも、中間部の重厚なギターメロディは圧巻であり、宇宙帝国さながらの荘厳さに酔いしれることができる。至高の名曲である。ちなみに、バイロン卿がズゥラに扮して唱えている(歌ってる?)言葉は、「ザァザム=ライア」、「ザザイ=トーン」と読み、《至天秘録》の究極の力を解放するキーワードとなっているのである。

4. 殺戮及び狼の会合
Of Carnage And A Gathering Of The Wolves
物語は、地上の神秘地帯である《ダーケンホールドの森》(2ndの9曲目に初出)にすら通ずる。宇宙空間を浮遊するかのような錯覚に陥ること必至の神秘的なメロディが、バルサゴスの壮大な世界に導く神がかり的な曲である。サビの部分の神秘的なギターメロディがこれも絶品で、独創性が極めて高い。また中間部以降の未知の世界へ踏み込むかのような幻想的なキーボードの展開は、感動的ですらある。一体どこからこんなにファンタジックなメロディが立て続けに出てくるのか疑問だ。

5. カリスト昇ず
Callisto Rising
《至天秘録》の欠片が隠されたという、小惑星カリストの黒き氷面化へとズゥラは旅する。4thアルバムを代表する屈指の名曲。スタメナのクラシックの名曲「モルダウ」をモチーフに、タイトルである「Callisto Rising~」を激烈なリフを伴い叫びまくるというなんとも型破りな曲。それだけでもすごいのだが、息を呑むクライマックスパートが宇宙一大決戦とでもいうべきなのだ。スペイシーなメロディに次ぐメロディの雪崩込みは、凄まじいの一言に尽きる。本当に宇宙で戦争が起こってるかのようなスペクタクルな曲である。ファンの間で人気が高いのも頷ける。

6. 第四天主の神罰
The Scourge Of The Fourth Celestial Host
個人的に、このアルバムで一番好きな曲であると共に、全アルバム中でも屈指の名曲だと思っている。#5から流れるように続くという展開も素晴らしいことさながら、次々に繰り出されるコスモなシンフォニーが全身を貫くように刺激する。バルサゴスだからこそ成し得た宇宙の大河である。流れるようなシンフォニーが渦巻くように、さも宇宙空間を漂うように、静まるように押し寄せる。この曲に銀河究極のロマンティシズムとヒロイズムが詰め込まれているといっても過言ではない。中間部の語りから銀河大河メロディへの展開こそ私が求めていた至高のドラマだ。その後のサビの激烈なヒロイズムが流れるギターソロに加えドラムの叩きつけは、至高ともいえるパートであり、彼らの齎した最高のパートに位置する。また、この曲は漫画(アメリカンコミック)になったそうである。銀河のス-パーヒーロー、シルバーサーファーも歌詞に登場しており興味深い。ノリン・ラッドとは、シルバーサーファーがかつて呼ばれていた名だ。またタイトルの「The Fourth Celestial Host」とは、地球に四番目に飛来したセレスチィアルズであるという。 セレスティアルズとは宇宙の旅人、神に等しい力をもつ存在である。

7. 見よ、咆哮を上げる戦軍は天より降臨せり!
Behold, The Armies Of War Descend Screaming From The Heavens!
これまでのイメージを損なうことのない、宇宙観の込められたバルサゴス曲。これまた宇宙的なギターメロディが高揚感を高める。歌詞には、日本の怪獣映画に登場するゴジラが登場。バイロン卿はこういうのも好きだそうだ。またこの曲の物語は《至天秘録》を巡る宇宙戦争とは別種の内容であり、銀河大蛇ザクマクラと《蛇殺し》センティネル・オメガの戦いを描いた宇宙叙事詩である。

8. ムーの謎めく十三の予言
The Thirteen Cryptical Prophecies Of Mu
「ムーの謎めく十三の予言」という意味深なタイトルを持つ。興味深いのは、破滅したズゥラの真実に続き、最後にあらゆる時間軸の歴史の監視者であるマスター・アルタルスが過去にアトランティス、ムー、レムリア、ハイパーボリアの偉大なる諸王国のすべてが最終的に大洋に沈んだことを明かすということだ。一体何故、それらの偉大なる諸王国は滅ばねばならなかったのか。これは、人類の永遠の謎でもある。曲としては、このアルバムのラストに相応しい盛大な曲である。宇宙決戦のフィナーレともとれる。どう聴いてもスターウォーズの宇宙帝国にしか思えないファンファーレとドラムが打ち鳴らされるパートのインパクトは絶大である。また、そのとき「kill!」とバイロン卿が連発しているのがさらに衝撃を強めている。全体で40分と短いアルバムだが、それ以上の充実を味わえたのは言うまでもない。


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BAL-SAGOTH 「Battle Magic」

Battle Magic



Country: United Kingdom
Type: Full-length
Release: 2006
Reviews: 95%
Genre: Symphonic/Epic Black Metal



本作は、イギリスが誇るウォーメタルの怪物、バルサゴスの1998年発表の3rdアルバムである。本作も前回と同じく三人のメンバー、バルサゴスのブレインことバイロン・ロバーツ(vo)、天武のシンセサイザー使いジョニー・モードリング(key)、必殺のギターメロディ奏者クリス・モードリング(g)により制作された。もはやこの超絶トリオは、メタル界屈指の特異な集団として、モータヘッドのトリオに匹敵するくらい有名になってしまったかも知れない。アルバムは、エピック・ヘヴィメタルの名作である前二作と同じく、不遇なヘヴィメタル界に著しく貢献するアンダーグラウンド・レーベルの一つであるカコフォノス(Cacophonous)よりリリースされた。同国イギリスのクレイドル・オブ・フィルス(Cradle Of Filth)の初期のアルバムも、このレーベルよりリリースされたのである。

今作を語る前に、前作での成功を振り返ってみることとしよう。1996年に発表されたバルサゴスの2ndアルバムにあたる前作『Starfire Burning Upon The Ice-Veiled Throne Of Ultima Thule』は、これまでのサウンドスタイルを突如として変容し、そのファンタジックかつシンフォニックなサウンドで、一部ではウォーメタル、バーバリアンメタルなるジャンルを確立するに至った。バルサゴスの成長には、誰もが信じられない思いだった。この変化は、バルサゴスもといバイロン卿の夢の実現において必要不可欠な必然性を齎した。サウンドの驚異的な進化が、アルバムの充実に繋がったのは言うまでもなく、結果的に彼らは、エピカルなシンフォニックブラックの異端児として、大きくファン層を獲得するに至ったのである。

そして、今回、エピック/シンフォニック・ブラックメタル──その特異な音楽性から一部では、ダーク・ファンタジーメタルとも形容された──の歴史的名盤である前作から更に一変、サウンドはまたもや驚異的な進化を遂げた。前作は、ブラックメタル特有の邪悪な雰囲気を醸し出す、実に攻撃的な作品だった。元々バルサゴスは、シンフォニックなブラックメタルであり、暴虐性を有してはいたが、大仰なシンセサイザーにその猛烈な暴虐性を乗せることにより独自の世界観を確立した。そして、特筆すべきはやはり歌詞世界であり、凄まじいまでに壮大な英雄叙事詩物語が一曲一曲の中に内包されている。その歌詞は、更に今作で推し進められたものとなり、公式の歌詞の中には小説ほどの長さのものまで存在しているのだ。

このように前作では、ダーク・ヒロイックファンタジーともいえる剣と魔法の古典的な世界を描ききったが、今回の舞台は、なんと中世──正確には、音楽性が中世に酷く類似している──であり、サウンドもそれに比例し、途轍もなくスケールの巨大な一大スペクタクルとなっている。まさに、バルサゴスによって、正式な「ヒロイック・ファンタジー」の世界がようやく描かれたということである。バルサゴス=バイロン・ロバーツ(vo)が長年夢見てきた、中世の戦いの再現が本格的に、遂に実践されたのがこのアルバムなのだ。歌詞には、前作の続編が納められたり、新たな短編が描かれているものもある。当然の如く、中世を歌った曲(彼らの場合、幾つもの次元間を舞台にして歌詞を書いているため、一概に中世とは言えない。例えるなら、エルリック・サーガの新王国のような別の惑星の中の極めて中世的な世界、という捉え方が適しているだろう。もちろん主な舞台は古代の地球ではある)も存在し、雰囲気を盛り上げている。

特筆すべきは、このアルバムの楽曲は、どれもが信じられないほどのクオリティの高さを維持しているということである。徹底的に制作され、かつ大胆に盛り上げられているのだ。それは、勇猛果敢な異世界の勇士の姿にも映る。まるで、ハワードの英雄像が、現世に蘇ったかのような感覚である。高潔と野蛮性の融合。この唯一無二のサウンドこそが、バルサゴスという怪物を象徴しているのである。また、本作では美しくも幻想的なメロディを多用し、その中世的な煌びやかなメロディによって、恰も別世界にいるかのような視覚効果をリスナーに齎している。これは、ある種、映画のような感覚に近い。とくかく、勇ましくエピカルでスペクタクルなサウンドである。 ギターメロディ、シンフォニー、スピード、全てが確実に進化を遂げている。ギターメロディに関しては、今作で更にヒロイックなロマンティシズムを感じる調子となっており、聴き手の印象に深く残る。果たして、本作が一般的なシンフォニック/エピック・ブラック・メタルに属するかは疑問である。例えるならヒロイックファンタジーそのものとでもいうのだろう。



1. 戦いの魔法
Battle Magic
このイントロダクションは、《黒兜谷》で歌われたという戦士王ケイレン=トーとその戦士らの凱歌である。静かに、しかし盛大なメロディを奏でる物語へのプロローグ。ファンタジーゲームのサウンドトラックのような、映画音楽に匹敵する幻想的な曲である。イントロから唯一無二の世界といえよう。

2. 鋼の肉体(戦士のサガ)
Naked Steel (The Warrior’s Saga)
曲名から察しがつくかと思うが、運命によって定められ、伝説的な戦士となる男のサガを歌うエピックメタルである。彼の振う剣は、《赤い歯》と題され、その鋭利な刃は、ドワーフによって鍛えられている。ファンタジックなメロディを伴い、凄まじい速さで雪崩込む様は圧巻といえる。アルバム開始早くも、ヒロイズムの頂点を極めた曲である。しかし、彼らの場合、戦士のドラマを誘う静かで哀愁を誘う場面も忘れることはない。クライマックスでは、いきなり辺りが静まり返り、まるで戦士の哀愁とでも形容するかのような抒情的なギターメロディが奏でられる。そこから盛大なシンフォとドラムが雄々しく打ち付けられるという栄光の展開においては、もはや言葉もない。

3. 深き木からの物語
A Tale From The Deep Woods
古のイングランドにて、主君に対する忠誠を誓う一人の勇敢な騎士の叙事詩。そして、これぞヒロイックファンタジーメタルである。魔法の怪しさに満ちた幻想的な雰囲気から始まり、RPGのような劇的な展開を見せる。突然ヒロイック極まりなりない勇敢で興奮に満ち溢れたギターメロディに紡がれて、一気に盛大な盛り上がりを見せるパートは圧巻であり、もはやここは剣と魔法の世界かとの錯覚を覚える程の視覚刺激を与えてくる。エピックメタル界でも歴史的に類を見ない、劇的極まりないパートだ。

4. イス最高会議幹部会への帰還
Return To The Praesidium Of Ys
半神ズゥラの邪悪な野望を語る曲である。彼は、風の精に魅了されており、操られている。怪しげな中世の交響曲的旋律から、バイロン卿の語りまで、緊張感が決して消えない荘厳な曲といえる。本当に、ここまでくるとファンタジックなメロディの乱舞としか言いようのない。一体どこからこのように盛大でファンタジックなメロディを次から次へと繰り出せるのだろうか……。後半では、お決まりともいえる劇的な展開が待っており、交響曲のような進行に語りが加わるパートは、至高のパートといえる。ラストに至っては、一気に勇ましいメロディと共に見事な完結を見せる。

5. 水晶の欠片
Crystal Shards
偉大なるイスの海軍の出港をズゥラが見つめている場面をインストゥルメンタルにした曲。聴いてみると驚きだが、今まさにイスの海軍が出向するという栄光に満ちた光景が目に浮かぶ。あまりにも盛大なシンフォニーである。ここまで壮大だと感動的すら覚える。

6. 極北の帝国の紋章の下に煌く千本の剣の輝き(エピソードⅡ:混沌の闇の君主は魔法をかけられたアズーラ・カイの神殿で解き放たれる)
The Dark Liege Of Chaos Is Unleashed At The Ensorcelled Shrine Of A’zura-Kai (The Splendour Of A Thousand Swords Gleaming Beneath The Blazon Of The Hyperborean Empire Part: II)
名高くも彼らの物語の代表作であるハイパーボリアのサガの第二章。偉大なるハイパーボリアの王と混沌の闇の君主アングサールの決戦を描く本作であるが、この第二章では、右手に《影の剣》を、左手に《メラの水晶》を持つハイパーボリアの王とその軍勢が遂にアングサールの死霊軍とアズーラ=カイ神殿にて激突する。しかし、王の持つ神秘の《メラの水晶》がアングサールの最強の死霊に強奪され、アングサールは人間の世界に再び実体化してしまうこととなる。王とアングサールの最後の戦いは、5thの#6に続くことになっている。肝心の楽曲の方は、三章と続くサガの中では、最高傑作となっているように感じる。完璧なるヒロイックサーガであり、王の台詞、極北を思わせる雄大なメロディ、激烈な疾走感が高揚感を極限まで高める。もしかしたらこの曲のタイトルは、メタル界で最も長いのでは...?

7. 嵐の末裔が乗りつけし時
When Rides The Scion Of The Storms
永遠の戦士として幾多の転生を繰り返す、カレブ・ブラックスローンの戦いの歴史が語られている。彼は、栄光を享受したアトランティスの兵士であり、ローマの剣闘士でもあった。また彼は、伝説的なアーサー王の軍隊から鋭い一撃を見舞われ、ヘイスティングスの戦いに参戦した戦士でもあった。そして時には、考古学者にも……。本曲は、あまりにも凝り過ぎた曲の一つに数えられる。中世といよりは、もはや全銀河のヒロイズムを表現したかのような劇的な曲であり、大仰極まりない。特に、サビであろうと思われる、中世の美しく勇ましいシンセと共に激烈な疾走と台詞を吐き捨てるパートは、悶絶ものである。しかし、これだけでは終わらず、中間にいきなり静まり返り、戦士のヒロイズムとでもいうようなギターメロディが奏でられるパートが出現する。そして、そこから、ロード・オブ・ザ・リングを思わせる英雄的なシンフォニーを伴い、サビでの激烈な疾走をもう一度繰り出すクライマックスが英雄像の如く待ち構えており、破滅しそうなほどの興奮と高揚感を覚える。

8. 円形闘技場砂で覆われ血で満たされん
Blood Slakes The Sand At The Circus Maximus
イケニ族の一人の戦士がローマ軍に捕えられ、自身の崇める神ケルヌンノス──古代ケルト神話の冥府神──にかけて、巨大な闘技場の砂を血で赤く染めるという歴史的エピック。また、リドリー・スコット監督の歴史大作映画『グラディエーター(Gladiator)』に影響を受けて制作された楽曲であるとバイロン卿は明かしている。そして、この曲は、バルサゴスの生み出した数ある名曲群の中でもベスト3には入るだろう神曲である。約9分に及び、そのすべてを一つの魔法の交響曲に注ぎ込んだ恐ろしいまでに壮大な楽曲である。聴けば、一大スペクタクル映画を見たかのような感動と興奮に包まれる。光り輝く黄金のロリカに身を包んだ古代ローマの強力な軍隊が、王者の街道を勇壮に行進するかの如く、勝者の盛大なクラリオンが天上に木霊し、巨大な円形闘技場で行われた生と死の決死の戦いが再び蘇る。中間部の微かな歓声と戦士の決意の表明は、ヒロイズム故に時が止まった瞬間である。バルサゴスが模索し続けた、一つの終着点ともいえる曲だろう。

9. 闇からの妨害(ヴァンパイアハンターの刃)
Thwarted By The Dark (Blade Of The Vampyre Hunter)
恋人が吸血鬼となり、彼女を殺めたことに悔いを残し冒険を続ける世界最高の吸血鬼ハンター、ヨアヒム・ブロッグの冒険譚。彼の刀は、黒く魔力を帯びており《破邪》と呼ばれる。勇ましく幻想的なエピックメタルである。極めて中世的な、美しいメロディの導入など、彼らは衰えを知らない。サビでの台詞を次から次へと叫ぶところは勇ましい。また、ハイパーボリアと同様、ブロックの持つ刀「マサユキィィスティィィィル」の絶叫はあまりにも有名である。

10. アトランティスの終焉...
And Atlantis Falls...
壮大なサーガにアトランティスの陥落と共に終わりを告げる映画的なエピローグ。歴史の観測者アルタルスは語る。突如として大海がせり上がり、飢えた獣のように大地に襲い掛かり、輝かしき栄光のアトランティスは、瞬く間に大海に呑み込まれてしまったのだと。 悲劇的な場面を見事に表現しており、一つの時代、一つの世界が終わりを告げる儚い瞬間を感じることができる。このようにアトランティスは陥落したが、詩に語られているように、戦士と魔術師たちの夢の中に生き続けるだろう。思い出として……。感動的な終焉である。


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BAL-SAGOTH 「Starfire Burning Upon The Ice-Veiled Throne Of Ultima Thule」

Starfire Burning Upon the Ice



Country: United Kingdom
Type: Full-length
Release: 1996
Reviews: 98%
Genre: Symphonic/Epic Black Metal



本作は、イギリスの偉大なるエピック/シンフォニック・ブラック・メタルバンド、バルサゴスの1996年発表の2ndアルバムである。バルサゴスの独創的なサウンド・スタイルは、しばしばウォーメタルやバーバリアンメタル等と各国で形容され、それに対して本人達は、自らの音楽のスタイルを"Kings Of Barbarian Metal"と大々的に公表した。ここで語られるウォーメタル、及びバーバリアンメタルとは、ヒロイックなメタルサウンドに中世の戦いの要素等を加味した内容である。その創設の歴史には、マノウォーやキリス・ウンゴルらが名を連ね、更に遡ればロバート・E・ハワードの生み出した"剣と魔法の物語(Sword and Sorcery)"の世界観に辿りつく。バルサゴスはラプソディー等よりも速く、これらの世界観をサウンドに取り込んだ。

バルサゴスの壮大な伝説は後々語ることとする。明白なのは、日本のファンにとってはかの名台詞「ハイプァボオォリィアアァァァァ」を語るバンドとして認知されている、ということだ(これは2chの掲示板で話題となり、多くのファンが生まれた)。しかし、エピックなヘヴィメタルを演奏するバルサゴスは、それだけには留まらない、実に興味深いバンドだ。海底のような深みを持っている。「ハイプァボオォリィアアァァァァ」という台詞は話題作りには貢献した。日本のファンにも、時には大仰な姿勢を真摯に受け止めていくことが求められる。我々はどんな楽曲の捉え方をしても許されるが、バルサゴスの世界観を理解できないという者達には「きみの理論は狂気じみている。だが、真実はもっと狂気じみたものだ」(*)という言葉の意味を考えて欲しい。もちろんこれは、ユニークな冗談に過ぎない。

*理論学者ニールス・ボーアの名言による。

バンドのブレインであり、天才的な作詞家であるバイロン・ロバーツ(Vo)が創造した驚異ともいえる剣と魔法に満ちた英雄のメタルサーガ群、それは、彼らのエピック・ヘヴィメタルを聴く者、また彼らの伝説を読む者のすべてを未知の冒険と新たな次元へと導いてくれる。もちろん私もその一人としてである。このアルバムも同様、バイロン卿の創造した壮大な幻想物語を軸にして起動する壮絶なコンセプトアルバムである。幻想怪奇小説の偉大なる作家らである、R・E・ハワード、H・P・ラヴクラフト、クラーク・A・スミス、E・R・バロウズ等に影響され、バイロン卿は、有史以前の古代の世界における神話や伝説を断片的な叙事詩として創造した。それは、太古の王国や帝国、現代、近未来、多元宇宙、異次元世界にまで及んだ。恐らくこれほどまでに壮大かつ特異なヘヴィメタルは、音楽の歴史上を見ても存在しなかったことだろう。またこのような試みが実行されたのも始めてだった。これらの世界に登場する国家の多くは、恐らく伝説として私たちに知られているものだ。これらの仮想現実の世界の中には、バイロン卿自ら創作した国家も登場する。これは、もはや小説の世界である。

そして、肝心の本作のサウンドであるが、これも歌詞に匹敵するスケール感のある内容となっている。実際、過去のヘヴィメタル史を振り返ってみても、難解な文学調の歌詞を書き、サウンドで完全にその世界観を表現したという実例は少ない。しかし、バルサゴスのサウンドは、太古の伝説群をモチーフにした詩世界すら上回っている。本作は、たった三人の英国人によって制作されたという点から考慮しても、その衝撃に上乗せする要素が確実にあるだろう。天才ジョニー・モードリング(key)による、凄まじいまでのファンタジックかつ荘厳なキーボード・プレイの応酬。幾つにも重ねられた壮大なシンフォニー。映画さながらの演出。大仰かつ劇的極まりないプログレッシブな楽曲の展開。クリス・モードリング(g)により奏でられるヒロイックなギターメロディ。勇壮な軍隊の突進を思わせる圧倒的な破壊力。そして、バイロン卿のデスヴォイスとナレーションを使い分けた度肝を抜くヴォーカルスタイル──これら全ての要素を融合し、本編でバルサゴスは唯一無二のヘビィメタルを作り上げた。クラシック、映画音楽、ゲーム音楽、ヘヴィメタル。その良い部分だけを余すことなく詰め込んだのである。まさに、バルサゴスという新時代のジャンルの登場の瞬間が、本作には記録されている。



1. 《影の山》の空高くを飛翔せし黒龍(プロローグ)
Black Dragons Soar Above The Mountain Of Shadows (Prologue)
RPGの如き荘厳な行進曲。勇ましいメロディが聴覚どころか視覚を刺激し、まさに黒き竜が影の山を登る姿が思い浮かぶ。この黒き竜こそが伝説的な《蛇王》であると、《影の山》の山頂より《石中より覗く者》は語る。彼は、かつて、無限の知識のために《影の山》の山頂で《星門》を開いた人物であるが、その代償として今は知覚力のある石に転じてしまっているのである。重厚な交響曲が大仰極まりない進行を見せる、劇的なオープニングトラックであり、バルサゴスにしか作れない楽曲である。余談だが、私くらいの熱心なファンになるとイントロですら名曲に聞こえてくる。

2. ミトス=クウンの魔女王を廃位せん事("黒兜谷の戦い"における伝説)
To Dethrone The Witch-Queen Of Mytos K'Unn (The Legend Of The Battle Of Blackhelm Vale)
《黒兜谷》で行われた魔女王ズラシャナの侵略軍と北方の全部族を統べる伝説的な戦士王ケイレン=トーとの決戦を描く英雄叙事詩。ケイレン=トーとは、並ぶものなき戦士、そして「北の狼」との異名をとる偉大な戦士のことである。劇的な展開を見せるバルサゴス節炸裂の名曲であり、突然軍隊の行進のようなパートに入り、ファンタジックなメロディへと展開していく様は、驚異的ですらある。後半のファンタジックなメロディの応酬に至っては、曲が変わったのかとすら思える。このクライマックスのパートは、戦士王ケイレン・トーの勝利の栄光を表しているのだろう。雄々しく、興奮すること必至である。

3. 大渦がコー=アヴゥル=タアの水晶の壁を照らすとき
As The Vortex Illumines The Crystalline Walls Of Kor-Avul-Thaa
得体の知れぬ《外界の闇》の猛威により、太古に破滅した水晶の大都市コー=アヴゥル=タァの惨劇を賢者ダイルーンの記録より物語る。怪しげなイントロから一気に古代的な交響曲が流れ出し行進する名曲である。それだけでも凄いのだが、中間部、いきなりの静寂に加え、大仰な迫真性を伴ってキーボードが叩きつけられるパートには絶句を禁じ得ない。そして、神秘的なメロディを伴って、古代都市の悲劇とでも形容すべき哀愁を伴った疾走を展開する様は壮絶である。悲壮的であり、視覚を刺激される名曲である。

4. ウルティマ=テューレの氷に覆われし玉座の頭上にて燃え盛る《星の炎》
Starfire Burning Upon The Ice-Veiled Throne Of Ultima Thule
これは、極北の最北端に広がる究極の神秘王国ウルティマ=テューレの戦士王子ヴォリューン=ヘルムスマイターの探索行の最終部である。彼は、ウルティマ=テューレの真の上王の一族のみが座ることができるという伝説の"ウルティマ=テューレの氷に覆われし王座"を探し求め、遂には自ら発見し、ウルティマ=テューレの神王となったのである。上記の物語の通り、まさにヒロイック・ファンタジーとでもいうような一大叙事詩が綴られる。オープニングは、凄まじいドラムとキーが叩きつけられるが急激に一変し、まるで太古の神話・伝承を彷彿とさせるヒロイック極まりないギターソロがバイロン卿の語りとともに静寂の内に紡がれ、幻想世界にいるかのような錯覚を聴者に齎す。そして、恰も勇壮な軍隊のように突進し、中間部まで来るとさらに一変し、まさに栄光を極めたとでもいうような王国調のシンフォニーが突然鳴り出し、聴く者を悶絶させる。正直、あまりにも凄まじい展開が本曲で巻き起こっているために、実際に何が起こっているか分からない程である。只感動的というここと、これを文章で表現することができない自分が情けなく思える。

5. 霧の島の冒険(月の無き夜闇の海の深淵を超えて)
Journey To The Isle Of Mists (Over The Moonless Depths Of Night-Dark Seas)
不気味なる霧の島へと導かれる極北の船乗りの日記である。音楽自体は、ゲーム音楽のようなインストゥルメンタル。見事な迫力があり、彼らの作曲力がいかに高いかを思い知らされる。また、ここですら視覚を刺激してくる。

6. 極北の帝国の紋章の下に煌く千本の剣の輝き
The Splendour Of A Thousand Swords Gleaming Beneath The Blazon Of The Hyperborean Empire
記念すべき、不朽の名作『極北の帝国の紋章の下に煌く千本の剣の輝き』の第一章にあたる。ファンの間では、*ハイパーボリアのサガなどと呼ばれているこのエピソードⅠも、素晴らしくヒロイックなエピックメタルに仕上がっている。全体に中世的な雰囲気が漂っており、英雄主義的であると感じさせられる部分が強い。後半の突然静まり返り、王が言葉を放つパートなどはかなり凝っているといえよう。しかし、ハイパーボリア王とアングサールの台詞をバイロン卿が見事に使い分けているのに至っては、苦笑を禁じ得ない。アングサール卿の「ハイパァボォリア」の台詞は一聴の価値ありと見える。

*ここ登場する極北の帝国とは、伝説上の大陸の1つであるハイパーボリアの王国を指している。ハイパーボリアの語源は、古代ギリシァ語の"北風の彼方"との言葉からだといわれているが、しかし、ハイパーボリアを太古の大陸として大々的に取り上げたのは、アメリカの幻想小説家クラーク・A・スミスが初出だというのが定説である。また、彼は、クトゥルー神話系の作家としても有名である。無論、バイロン卿は、スミスにも多大な影響を受けている。

7. 見よ、帝国がグル=コトースに対して行進せし時、《黒曜石冠》の城塞は闇の魔法で包み込まれるであろう(エピソード:Ⅷ)
And Lo, When The Imperium Marches Against Gul-Kothoth, Then Dark Sorceries Shall Enshroud The Citadel Of The Obsidian Crown
《黒曜石王冠》サガの第一章。本曲のレビューには、私が過去に書いた文章を直接代用させてもらうとしよう。これが一番分かりやすくまとまっているはずである。本曲は、バイロン卿が創造したという「帝国」と「ヴィルゴシア王国」の大戦を描いた叙事詩的な楽曲である。 《帝国》とは、地図(B.A ロバーツ作)の南方に位置する、南大陸の中で最も強力な国家。強大な皇帝、クールドによって治められており、帝国最強の歩兵軍団《漆黒の虎》隊は、古代諸王国に名を馳せ恐れられている。 一方、《帝国》の隣国であるヴィルゴシア王国は、ヴィルゴシア上級王が保持する強力な同盟によって守られた強力な国家である。 この両国は、先祖代々争っており、近年、《帝国》の圧倒的な力によりヴィルゴシアは追い詰められていた。しかし、《帝国》の《漆黒の虎》隊ですら打ち破れなかった太古の城塞都市《グル=コトース》──古代ヴィルゴシアの英雄たちによって切り開かれた、王国の中で最も古く強力な砦──が長らく帝国の進行を妨げていた。この城塞を打ち破るため、皇帝クールドは、ヴィルゴシアに彼の最も強力な魔術師を急派する。魔術師の目的は、ヴィルゴシア王国の秘密の城砦に隠されているという伝説の、かつて太古の《影の王》が抱いていたという絶大な魔力を持つ《黒曜石の王冠》の封印を解くということにあった。しかし、魔術師の試みはヴィルゴシアに見抜かれ、試みは失敗したかに思えた。だが、偉大なるヴィルゴシアのマスター・ウィザードは、不吉で恐ろしい知らせを魔法でくれたのだった。それがタイトルとなっている、 「And Lo, When The Imperium Marches Against Gul-Kothoth, Then Dark Sorceries Shall Enshroud The Citadel Of The Obsidian Crown(見よ、帝国がグル=コトースに対して行進せし時、《黒曜石の王冠》の城塞は闇の魔法で包み込まれるだろう)」 という言葉なのである。これに従い、皇帝クールドは、およそ10万を超える帝国の大軍を率い、グル=コトースへと行進する。この壮大な物語の続きは、6thの4曲目で語られることになる。 雄大にホーンが鳴り響く楽曲は、戦士のヒロイズムを思わせるギターメロディと共に絶賛に値する。この勇ましいギターメロディは、このアルバムの中でも最高のメロディに位置するものだ。剣と魔法の諸力を間近に感じることが出来るとでも形容しておこう。ちなみにベイジル・ポールデュリス作である「コナン・ザ・グレート」サウンドトラックからのメロディの拝借が後半にある。

8. 星門の守護者を召喚せし事
Summoning The Guardians Of The Astral Gate
不気味な《影の山》には、開いたものに星間宇宙のあらゆる場所への移動と究極の叡智が授けられるという伝説の《星門》が隠されている。《星門》を開くには、《影の山》の頂の輪の中にて、天上の呪文を唱え、正門の守護者として知られる歩哨を呼び出さなくてはならない。歩哨の名は、それぞれズクスルス、クルオック、グゥル=コォル、カ=ク=ラという。勇壮な宇宙を思わせる曲であり、銀河を舞台とした後の4thに通じる。全曲に言えることだが、攻撃的なサウンドが恐ろしいまでの勇ましさを伴って迫ってくる。後半のギターソロは、宇宙の広大さを見事に表現している。ヒロイックストーリーという言葉しか思い浮かばないように、ヒロイックな曲だ。

9. 太陽の光の決して届かぬ影の支配せし場所、大鴉に荒らされしダーケンホールドの森にて
In The Raven-Haunted Forests Of Darkenhold, Where Shadows Reign And The Hues Of Sunlight Never Dance
北方諸国の数十万平方マイルに跨る《ダーケンホールドの森》を治める《森の王》と樹木の精霊たちによる神秘的な物語。最後にこれほど完成度の高い名曲を残しておくところは、本当に憎い。まさに、太古の雄姿を一身に背負い突進するサガである。幻想的なキーボードとクライマックスのギターソロには、戦士的な光景を視覚に感じずにはにはいられない。クリス・モードリングの奏でるギターメロディは、ヒロイック極まりない。彼らの伝説は、宇宙、そして古代の英雄を讃えているかのよう。

10. 夢見る神々の祭壇にて(エピローグ)
At The Altar Of The Dreaming Gods (Epilogue)
何者かの探索に終わりを告げる、壮大な冒険に栄光の幕を閉じるに相応しい幻想的なエピローグ・トラック。こうした徹底的な構成が感銘を引き起こすのだろう。ここまで来ると、現実にいることを忘れてしまう。全編通して感動的であることは記すまでもない。


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BAL-SAGOTH 「A Black Moon Broods Over Lemuria」

Black Moon Broods Over Lemuria



Country: United Kingdom
Type: Full-length
Release: 1995
Reviews: 81%
Genre: Symphonic/Epic Black Metal



このアルバムは、後に"Kings Of Barbarian Metal"として世界に知られることとなる、Bal-Sagoth(バルサゴス)の記念すべき1stアルバムである。きっとどんなバンドもそうだろうが、決して彼らの叙事詩は、唐突に始まっていった訳ではない。イギリス、ヨークシャーに生を受けた作詞家、バイロン・ロバーツ(vo)が初めてバルサゴスという一大プロジェクト──彼が愛してやまないSF・ファンタジィの世界及び古代の伝説・神話をベースにしたダークなエピック・ヘヴィメタルバンド──の構想を練った時、世界は、まだ1989年という若さだった。やがて、バルサゴス(*バンド名の由来については、「コラム・ザ・コラム」第一回を参照)というバンドを正式に結成するまでに、彼は約4年の歳月を必要とした。

バイロン卿が本格的にバルサゴスを始動させるに至ったのは、天才的な音楽家であるモードリング兄弟との出会いが非常に大きく働いたといえよう。それは、他ならぬ、後のバルサゴスの極めて驚異的なサウンドに決定的な貢献を果たすことになるキーボーディストJONNY MAUDLING(ジョニー・モードリング)とギタリストCHRIS MAUDLING(クリス・モードリング)のことだ。バルサゴスという極めて高度なヘヴィメタルバンドを完全な形態に近づけるためには、彼らほど才能があって適切な人物は、世界中何処を巡ってもそうそう出会うことができなかっただろう。しかし、バイロン卿は、彼ら兄弟と偶然にも出会ってしまった。かくして、バルサゴスという天武のメタルバンドは、世界へ進撃するための基礎を整え、本格的に軌道した。モードリング兄弟、そして、ジェイソン・ポーター(Ba)という人物を新たにバンドに迎え、彼らが加入した同年の1993年にはデモを制作することに成功した。そのデモを皮切りにして、彼らは、1stアルバムの制作に着手したのである。

バイロン卿が思い描いた壮大なコンセプトを実現すべく、この1stアルバム『A Black Moon Broods Over Lemuria(邦題:レムリアの空に浮かぶ黒き月)』は制作された。本作こそが、バルサゴスの世界での本格的なキャリアのスタートになったのだ。記述するまでもなく、バルサゴスのサウンドには、バイロン卿自身のお気に入りの音楽性が徹底的に詰め込まれている。まずもって本作のメタルのサウンド表現に選択されたのは、ブラックメタルだった。ブラックメタル及びデスメタルが、バイロン卿が最も好んでいたヘヴィメタルのスタイルだったからだ。その次に選択されたのは、神秘的かつ特異な世界観をより重厚にし、異世界の雰囲気を確固たるものにするためのキーボード(シンセサイザー)だった。当然の如く、この問題は、天才的なキーボーディストであるジョニーによって迅速に解決された。彼のキーボードに対する絶対的なセンスは、この1stでは、バックの装飾に留まっているに過ぎないが、雰囲気において多大な貢献を果たしているのは、誰の耳にも明らかだ。

バルサゴスにとって唯一無二であり、最大の個性である、古代の神話・伝説、SF及びファンタジィの世界観にに題材を得た、壮大な詞世界もこのアルバムから開始された。どうやら既にこの頃から、2nd、3rdの構想は、バイロン卿の中にはあったようで、1stアルバムは、サーガ三部作の第一部として位置づけられた。主に太古の世界──バイロン卿が語るには、アンティディルビア(ノアの大洪水以前)の世界──に重点を置いた本作では、重く暗い厳粛な雰囲気が全編を覆い隠すような作風となっている。後に続いていく彼らの前代未聞の試みは、メタル界でも異例の出来事だった。このスタイルを世間では、エピックと形容するかどうかは、まだ当時においては、幾分か怪しまれていたが、何か可能性を持った存在がこの時産声を上げていたというのは、確かだった。バルサゴスの1stが発表された時、イタリアのラプソディ(後に四部作サーガを創ることとなる)は、まだデビューすらしていなかったのだ。

紆余曲折あったが、事実として、エピックメタルの歴史的な意味合いを込めたこのバルサゴスのアルバムが世界に送り出されたのは、1995年のことだった。本作が完成したのは、発表より約一年早い1994年だったが、レーベル間の諸問題で翌年の1995年のリリースとなった。当時は、まだメタルの低迷期であったにも関わらず、時代の風潮をものともしない彼らの行動は、彼らが生み出すことになるウォーメタルを体現しているかのようにも映った。しかし私としては、バイロン卿は、あらゆる時代性、周囲の物事を全く意図せずに、この作品を産み落としたのかとさえ思るのだ。なにより、作品の詩世界がそう物語っているようである。ある種の探索者であるバイロン・ロバーツは、本作の発表によって、ただ自らの夢を一歩近づけただ。その行為には、我々が賛同するもしないも、称賛するも非難するも、様々なアクションを起こすだろうが結局は、外の世界での出来事に過ぎないのである。自らの世界を探求するものに、外部の干渉は無用である。バイロン卿は、メタル界でも特筆して知的な人物である。H・P・ラヴクラフトの神話を題材に、大学の卒業論文を書き上げ、イギリスのシェフィールド・ハラム大学を首席で卒業したという経歴も持っている。しかしそれ以前に、神秘的な出来事、過去に失われた知識に対する知的好奇心が強い人物である。私はこのような人物達のことを「知識の探索者」として独自に命名しているが、恐らくは彼もそうだろう。そして彼は、その中でも非常に優れているのだ。このように私は、バイロン卿という人物像自体に対して非常に深い興味と考察を抱いているが、内面的な部分についての話はここまでにしよう。恐らくは、永遠と長引いてしまうだろうから。

かくして、デビューを果たしたバルサゴスであるが、先述したサウンド面については、純粋なブラックメタルに類似しているといえるだろう。1stの主な特徴としては、残虐なリフ、ブラストビートを駆使した猛烈なアグレッションを軸としている(それでも疾走率は、他から見て中間位に位置する)。その中でも、一層強烈な個性を叩き出しているのが、バイロン卿の唯一無二のヴォーカルスタイルである。彼が生み出した、デスヴォイスとナレーションを臨機応変に使い分けるという技法は、バルサゴスの魅力の一つを確立した。本作は、めまぐるしい曲展開も随所に見られるが、それを印象的なラインでなぞり、劇的なパートに押し上げているのも、ナレーションの効果に他ならないのである。特に、太古のレムリア大陸を舞台にした#4の語りに至っては、驚異的な迫真性を持ってして聴き手に迫る。また、他の要素として、バルサゴスの標榜する世界観を醸している要素があり、アーノルド・シュワルツネッガー主演の名作映画『コナン・ザ・グレート』のサウンドトラック(作曲家ベイジル・ポールデュリスによる)からの引用的フレーズを用いた#3、#9は、名曲に値する。この試みは、2ndまで続けられるが、それ以降導入されなくなったのは、自らのサウンドが確立したからだと考えるのが妥当だろう。突出した名曲が数曲、全体の完成度も申し分ない。

当時、このアルバムを聴いていた人々は、どういった評価を下しただろうか。きっと大きな可能性を秘めていると思ったに違いない。そう考えた者は、自分の考えが間違いではないと、後に気付くこととなった。このアルバムを総評するいい言葉がある「一人の人間にとって小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍だ」ここで、アポロ11号のアームストロング船長が月面歩行の際、言い放った有名な言葉を引用したのには訳がある。当時、約7億人の人々がこの言葉を聴いていたという。では、バルサゴスの1stアルバムを聴いた人間は、世界で何人いたのだろう。



1. ハテグ=クラ
Hatheg Kla
ここからすべてが始まったといえる。伝説の霊峰ハテグ=クラより若き候補者は言い放った「いざ禍々しき六の鍵の力を解き放つべし!」このようにして、バルサゴスの伝説は幕を開ける。意味深なイントロダクションではある。

2. アトランティスの尖塔の夢
Dreaming Of Atlantean Spires
時に失われた丸天井の墓所にて、魔法使いは、伝説の影の王を呼び出す。全ての魔女が余の処に飛び交い、黒き魔法の剣と不死の風が余を包む。黒き門が開かれるのだ。

3. 呪文と月炎(氷の要塞を越えて)
Spellcraft & Moonfire (Beyond The Citadel Of Frosts)
狼の支配者は森に再び訪れ、月に合わせて歌う。黒い石は、冬の月の永遠の力を霞め取る。暗く重いリフに幽玄なキーボードが絡む序章からやがて一変し、残虐的な疾走を開始する。しかし、テンポチェンジなどの要素を盛り込みただの他のブラックではないことを痛烈にアピールする。特に、中盤に登場する静寂パートからコナンのシンセサイザーへの流れに至っては、鳥肌が立つほどのカタルシスを覚える。曲展開においては、既にめまぐるしいものが十分にあるといっていいだろう。

4. レムリアの空に浮かぶ《黒き月》
A Black Moon Broods Over Leumria
太古の時代、現在のインド洋に隆起していたという、伝説のレムリア大陸を舞台にした荘厳なるタイトルトラック。神秘的な荒野、古代の国々の魔法、煌く狼の目、月の欠片、古き神々の夢が垣間見える。太古のレムリアの上空にて、《黒き月》は浮かぶ。そして、《静寂の谷道》への道が開けるのだと、古代の伝説は物語る。その世界観に見合う厳かなドラムのリズムと神秘的なジョニーのプレイが絶妙にかみ合った初期の名曲。その壮絶なイントロ、中盤、アウトロのドラム・リフは名演に値する。醸される雰囲気は、まさに異世界、異次元と呼べる浮世離れしたものであり、あらゆるものを震え上がらせる。攻撃的な雪崩れ込みも、勇ましさを醸しだすのに成功している。余りにも神秘的かつ、叙事詩的な曲である。後半の静寂パート、バイロン卿の威厳のある語りから神聖ですらあるシンセが流れ出るパートには感動を覚える。この圧倒的な世界観、構成をエピックと呼ばずに何と呼ぼうか。

5. 蛇王神殿での即位
Enthroned In The Temple Of The Serpent Kings
ここで語られる《蛇王神殿》とは、伝説的な《蛇王》を称賛するために作られた、極北の氷河地帯にある途方もなく巨大な神殿のことである。しかしそんなことは構わず、楽曲は、ややサタニックな雰囲気を放ち疾走。サイケデリックな禍々しさに満ちた曲である。バイロンの語るナレーションパートは、ストーリーテリングで素晴らしいが、クリス・モードリングのギタープレイもテクニカルな変則を連発。

6. 黒ピラミッドの影
Shadows 'Neath The Black Pyramid
《ダゴンの沼地》を横切り、漆黒の門が開き、黒きピラミッドへと至る道が記されている。暗く重いシンセとリズミカルなブラックリフが刻まれる曲。静と動の両パートを駆使した、各パートは非常にテクニカル。 バックのキーも邪悪な雰囲気を演出。クライマックスでの神秘的な疾走もいい。

7. 魔女嵐
Witch-Storm
金切り声をあげるギターから始まる。禍々しさと闇の雰囲気を持って疾走。語りに合わせるリズムパートは魅力的なパートだろう。壮大なキーに、セリフを吐き捨てながら疾走部分は後に通じる。

8. 血の饗宴
The Ravening
遥か太古、鋼鉄の剣の時代に、剣によって支配した君主を描く詩である。重厚かつ破壊的な一曲。恐るべき正確さで打ち込まれるリフ、ドラムが無情。アグレッシブなブラックとしてはいいだろう。幽玄なキーボードも印章的だ。

9. サファイアの玉座の静寂の間へ
Into The Silent Chambers Of The Sapphirean Throne
1stアルバム最大のハイライトともいうべき、恐るべき完成度を誇る、バルサゴス屈指の名曲である。太古の伝説的な王国であるヴァルーシア(通称"影の王国")の伝説、その血塗られた世界と幾多の戦いの歴史、そして、やがては大海に沈みゆく巨大国家の行く末が物語られるという、壮絶なる叙事詩である。詩に登場する"カ ナマ カァ ラジェアマ、ヤグコーラン ヨク ター フタルラ!"の呪文は、何れもバイロン卿が尊敬してやまないロバート・E・ハワードの小説から引用されたもの。ブラックの攻撃性をうまく取り入れ、そこに厳かな語り、異様な雰囲気を放つキーを導入。そして、この曲が名曲たる最大の由縁は、映画からの拝借パートが余りにもマッチしている点にある。ドラマ性、スケール感、リリシズムは極限状態といってもよく、コナンのメインテーマを低音ギターで奏でるパートの厳かさ、ヒロイズムには身も凍る。その歴史的なメロディを伴っての疾走は、言語に絶する。驚異の大傑作といえよう。

10. 静寂の谷道
Valley Of Silent Paths
アルバムのエピローグ。各詩に登場する《静寂の谷道》がタイトル。なんとも不気味なシンセの音が木霊する。


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The Master

コスマン・ブラッドリー博士

Author:コスマン・ブラッドリー博士


Cosman Bradley(16/06/10)
David Orso(16/06/10)
Daiki Oohashi(16/06/10)
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